興味深いのは、受賞したピーター・フィンチの方が、ウィリアム・ホールデンよりも出演場面が少なかったという点です。ピーター・フィンチは死後受賞だったことから、亡くなったばかりの彼に対して同情票が入ったのではないか? との憶測を生むことになりました。『ネットワーク』の場合は、主演女優としてフェイ・ダナウェイも受賞を果たしているだけに事はややこしく、誰が主役なのか? という基準は今なお曖昧なのです。ちなみに、『第十七捕虜収容所』(1953)で第26回の主演男優賞を受賞したウィリアム・ホールデンも出演場面が短いことで有名(33分20秒)で1955年まで“最短出演時間の主演男優賞”の記録を保持していました。

 2026年に開催される第98回で受賞を狙う『ウィキッド 永遠の約束』(2025)の映画会社によるロビー活動では、エルファバ(悪い魔女)役のシンシア・エリヴォを主演女優賞、グリンダ役(良い魔女)役のアリアナ・グランデを助演女優賞に推すというキャンペーンを展開。ふたりの登場場面のバランスが前作と同等だと判断し、競合することを避けての戦略だと分析されています。本書執筆時はまだノミネート発表以前ですが、受賞結果に注目したいです(編集部注:シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデともにノミネートはかなわなかった)。

その年に最も秀でた作品が受賞するとは限らない

 アカデミー賞は、誰もが納得の映画史に残るような作品が必ずしも受賞するとは限りません。例えば、第55回で『ガンジー』(1982)が作品賞を受賞した際、最有力候補と言われていたのは9部門で候補となっていたスティーヴン・スピルバーグ監督の『E.T.』(1982)でした。

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 世界興行記録を作りながらも、作曲賞や視覚効果賞など技術部門の受賞のみで、作品賞では『ガンジー』に完敗したスピルバーグは、第58回の『カラーパープル』(1985)でも主要9部門で11候補になるも無冠に終わっています。アカデミー賞は実話を描いた作品や実在の人物を演じた俳優に授与した例が多く、『ガンジー』にも同様の要素を指摘できます。

 各々の作品に対する評価は人それぞれですが、今もなおより多くの映画ファンに観られ、より知名度の高い映画は『E.T.』の方だということに誰も異論はないと思うのです。アカデミー賞は“ハリウッドにおけるハリウッドのための賞”であるため、『E.T.』に対しては「映画をヒットさせ、お金まで儲けている才能ある若い監督に、名誉まであげるのか?」という嫉妬(しっと)を、同業者たちがスピルバーグに対して抱いたのではないか? とまで噂されたのです。

 このような、“今もなおより多くの映画ファンに観られ、より知名度の高い映画”の方が受賞できなかったという過去の例は数多あります。その中でも代表的な作品は次の3本です。