Google、Facebook、Microsoftなど、世界の名だたるテック企業が相次いで参入し、一大ブームを巻き起こしているVR(仮想現実)業界。映画やゲームなど、娯楽としての活用に注目が集まる中、実は意外な分野にもその影響力が広がりつつある――。そんな最前線を紹介するのが『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』だ。VR業界の先頭で研究を続ける米教授による同書を、元陸上競技選手の為末大氏が「スポーツでの活用」をテーマに読み解いた。

 脳はVR内での経験を実際の出来事として処理

 これは強烈な本でした。僕はこれまで、スポーツにおけるVRの活用は、エンタテインメントの領域で伸びると思っていました。でも本書を読んで考えが変わりました。トレーニングです。今後、VRは間違いなく、スポーツ選手のトレーニングに大きな変革をもたらします。

為末大氏

 本書では、著者のジェレミー・ベイレンソン教授がアメフト業界にもたらした“革命” が紹介されています。これを読んで、僕は「そうか、このアプローチがあったのか」と衝撃を受けました。彼はスタンフォード大学で心理学の観点からVRを研究している、この道の第一人者です。アメフトでは、何人もの選手が複雑に動く中で、最善の一手を瞬時に判断する能力が必要なのですが、それを効率的に鍛える手段はこれまで存在しませんでした。結局は試合での経験がモノを言う世界だったんです。そこにベイレンソン教授がVRを持ち込んだ。すると選手は、試合と全く同じ視点で実戦的な練習を何度も繰り返せるようになり、プレイの質と成績が格段に向上したんです。

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 その影響力の強さを支えているのが、「VR内での経験を、脳は実際の出来事として処理してしまう」という、本書で紹介されている驚きの事実です。僕は数年前から、アスリートの視点を追体験できるスポーツVRを作ってきました。僕が初めて見たVRも、山縣亮太選手の視点で100mを走る360度映像だったのですが、やはり「これは没入感が全然違うな」と圧倒されたことを覚えています。