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新浪剛史が語る「経済外交」 金正恩がそれでも「核を手放さない」理由 

新浪剛史が語る「経済外交」と「日本経済」#3

2018/08/18
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今世界で一番ベンツを買っている者は誰か

――では、米朝会談の着地点はどうなると考えていますか。

新浪 これまで北朝鮮は交渉を決裂させても失うものは何もなかった。しかし、今は違うのかもしれません。例えば、北朝鮮と中国との国境付近から北朝鮮国内にスマホがどんどん流入しています。今、金正恩があれだけ国民にサービスするのも、世界で何が起こっているのか。人民がわかり始めているからです。それだけ国内に情報が拡散しているということです。

 今、世界で一番メルセデス・ベンツを買っている個人は誰か。それが金正恩なのです。コニャックもブランデーもそうです。すべて党や朝鮮人民軍の幹部に配っているのです。金正恩直属の機関である朝鮮労働党「39号室」が処理をして、全部仕切っている。つまり、金正恩への忠誠心はモノやカネで結ばれているということです。それだけ忠誠心はもろくなっている。もし軍や人民たちが結集して立ち上がることがあれば、大変なことになる。だから、ある程度人民を大切にしなければならないのです。

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――なるほど。

新浪 ですから、米朝会談の着地点としては、まずMADがきちんと働くかどうかを確認すべきでしょう。そのためには、サイバー攻撃やスパイ行為などを全部クリアにしなければなりません。また、北朝鮮で興味深いのは、核以外の装備にあまりお金を使っていないことです。核以外では経済政策を重視しています。それだけ金正恩は経済に危機感を持っているということです。そのせいか、韓国には、過去は許さないが、何かしらの接点ができるかもしれないという淡い期待感がある。その意味では、日本も経済面で接点をつくり得るかもしれない。どちらにしても非核化は継続した交渉が必要になってきます。しかし、これも米中が一緒になってやっていかなければ実現できないのです。要はカードは中国にあります。北朝鮮のミサイルが中国にも向けて配備されています。しかし中国は朝鮮半島の“現状維持(status quo)”を望んでいますので、今以上のアクションはとらないでしょう。

©AFLO

日本のミッションは核なき世界をつくること

――北朝鮮は核開発を中止し、核実験場も破棄すると表明していますが、具体的な取り組みには移っていない。今後どうなるのか。その不透明さはさらに増しています。

©鈴木七絵/文藝春秋

新浪 だからこそ、米中は貿易戦争をやっている場合ではないのです。ロシアだって、どう動いてくるかわかりません。EUでもドイツをいじめすぎると、ロシアに近づいていくかもしれない。大国間の思惑は交錯しています。今の国際情勢は本当に読みづらいのです。

 これからの朝鮮半島情勢がどうなるか。予測は難しい。もし非核化へ向けた条件闘争の中で何らかの進展があれば、アメリカは在韓米軍を縮小することになるかもしれない。そうなれば、沖縄は第一列島線の防衛ラインに位置づけられているので、これからさらに重要な位置付けになるだろうと思います。

――結局、北朝鮮がすがるように、核がなければ国際的プレゼンスを持てないのでしょうか。

新浪 いいえ。日本は核のない世界をつくることがミッションだと思います。もし核保有を是とすれば、日本は他の国と変わらなくなってしまう。だからこそ、現在のスタンスで、広島、長崎を風化させない日本にしなければならないのです。二度と先の大戦の過ちを繰り返さないように私たち自身が知恵を絞るべきなのです。

 今、世界中で格差との闘いが起こっています。その点、日本は激しい格差がありません。なぜ日本はこうした社会を実現できたのか。その仕組み、日本型民主主義を、格差の著しいASEANに提供していくことも重要になってくるはずです。

 その意味でも、多様な価値観の中で、各国が歴史を共に考えることによって、核のない世界を築いていくことが必要なのではないでしょうか。

取材・構成=國貞文隆

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