なぜ香港人や中国人は東京の不動産を買うのか
東京の魅力はどこにあるか 私は陳氏に聞いた。
「日本は税金が高い国です。いくら簡単に所有権を取得できるといっても、東京以外にも魅力的な都市は、ニューヨークやシンガポール、ドバイのほか、東南アジア諸国にもいくらでもあります。なぜ香港人や中国人は東京の不動産を買うのですか」
彼の答えはこうだ。
「不動産のマーケットにおいて、健康なのは日本だけだと思います」
確かにニューヨークは魅力的だが、金利は6〜7%と高い。これだと不動産よりもドルを買って定期預金にした方がいい。
シンガポールは近くてよいが、外国人が不動産を購入する場合、60%の追加税が課せられる。加えてコロナ禍後に不動産の値上がりが起き、あまりに高額で買いにくい。
所得税、住民税、贈与税、相続税がかからないドバイに一部の資産を移す人は確かにいるが、食事、インフラ、教育、医療、気候という生活面を考えた時、圧倒的に日本に軍配が上がる。ドバイは、人種差別の意識も根強く、心の平穏さの面でも日本が優るという。
短期で値上がり益を得たければ、急発展を遂げるホーチミン、ジャカルタ、マニラ、クアラルンプールの不動産を取得する方が確実だ。しかし生活の質や健康的な暮らしを考えたら、やはり日本の方がいい。
日本は確かに税金は高いが、どこよりも安心して暮らせる。旅行をすれば、食事、自然、温泉、祭りなどの魅力にあふれた場所がたくさんある。「不動産を買うなら、日本が一番なんです」という陳氏の言葉に納得がいった。
さらに最近、新たな事情も加わっている。中国国内の景気悪化と就職難だ。中国国家統計局発表の若者失業率は、2023年6月に21.3%で過去最悪を更新している。
中国では6月が卒業シーズンに当たるが、2022年に大学卒業者が1000万人を突破した。2024年の日本の大学卒業者は約60万人だから、約17倍に相当する。
陳氏によると、この状況を受けて、2〜3年間、日本に留学して、日本語を学び、その他のスキルや能力も高めながら、中国経済の回復を待つ、という中国人が増えているという。「学生の留学」というより、20代後半から30代の「大人の遊学」に近い。「数万人という単位で日本に来る可能性もありますよ」と陳氏は話した。さらにアメリカで学生ビザを取り消された引き揚げ組が日本にやってくる可能性もある。
外資を締め出せば済むのか
「中国人による不動産の購入はけしからん」といったネットニュースが毎日のように飛び交っている。しかし、「不動産営業で成功するには中国語を学ぶのが一番の近道」という声があるほど、中国人が“出口”、つまり「売り先」になっている。今、この業界が中国人によって支えられていることは間違いない。
2008年、リーマンショックが起きた時、外国人投資家や海外ファンドが一斉に日本の不動産への投資を縮小した。これにより、多くの不動産会社が倒産した。同年の倒産件数は500を超えた。この時のことを不動産業界の関係者は今でも鮮明に覚えている。その傷口はまだ完治していない。いい思いをしたのは、結局、叩き売られた物件を底値で買った外資系のハゲタカファンドだった。
緩すぎる永住権やビザ、所有権の取得要件は、もっと厳しくすべきだ。しかし中国人という“出口”を急激に締めるようなことはしないでほしい、というのが不動産業界の本音であることも事実だ。