価格が上がり続ける都心のマンションを、香港や中国の富裕層が購入している。彼らの目的は、資産を自国から日本に逃がす「逃資」だ。長年住んでいた邸宅を手放し、日本に移住する香港人も急増しているという。

 ここでは、20年以上にわたり不動産業界を取材してきた吉松こころ氏の『強欲不動産 令和バブルの熱源に迫る』(文春新書)より一部を抜粋してお届けする。

 外国の投資家にとって日本の不動産はなぜ魅力的に映るのか? そして、吉松氏が「今の東京は30年前の香港の姿だ」と語る理由とは……。(全5回の2回目/続きを読む

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不動産価格が高騰する晴海フラッグ周辺 ©kawamura_lucy/イメージマート

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「ニッポン不動産」の魅力

 東京は、ニューヨーク、ロンドンと比べれば不動産が割安で、距離的にも近い。香港富裕層がもっていた家は100億円を超えるものばかりだ。売却により得た資金で、トイレや風呂がひとつしかないことに目をつむって東京の1億円マンションを2、3部屋買ったところで懐は痛まない。むしろ値上がりでもっと大きな金に化けてくれる。

 それだけではない。資産を作った日本人には相続税がかかるため、納税のために資産を売らなければいけないが、相続税がない中国人はどんどん買える。

 日本では、相続が発生すると最大で55%もの相続税が課される。「富は3代でなくなる」と言われる所以だ。例えば100億円の資産があっても、次の世代には半分、その次の世代にはさらにその半分と、資産は受け継がれるごとに目減りしていく。

 一方、相続税がない中国人であれば、品質が良くメンテナンスも行き届いた「ニッポン不動産」を、無税で次の代、そのまた次の代へとスムーズに引き継げる。相続税対策のために日本人が手放す物件が、彼らの資産拡大を大いに助けるのだ。

 こうして富裕層が続々と国外脱出を図る香港だが、その人口は、実のところ増えている。香港政府の発表によれば、2023年半ばは、前年同期比2.1%増の749万8100人だった。さらに2022~2046年の人口予測を見ると、2046年には819万400人に達する。入ってきているのは誰か。それは、中国本土からの移住者だ。

 テンセントや電気自動車のBYDが本社を置き、人口1700万人を超えるIT都市である深圳まで地下鉄で1時間、“マネーロンダリングの聖地”マカオまではバスで40分の近さだ。本土で富を築いた人々にとって、香港は近所。仮に海外に逃亡する計画があったとしても、香港は心理的にワンクッション置ける場所らしい。