令和の不動産バブルはいつまで続くのか。都心部の中古マンションの価格は2021年から4年の間に、なんと1.5倍ほどになった。中には3倍近く高騰した物件もあるという。10億円を超えるような高額な物件を購入しているのは、主に香港や台湾の富裕層だ。
彼らはどうして日本の不動産を欲しがるのだろうか? 20年以上にわたり不動産業界を取材してきた吉松こころ氏の『強欲不動産 令和バブルの熱源に迫る』(文春新書)では、その理由や価格高騰のからくりを明らかにしている。
今回は世界的な半導体企業「TSMC」が工場を建設することで空前の不動産バブルに沸いている熊本の内情を描いた箇所から一部抜粋する。
◆◆◆
1700世帯の農家を一気に回る
「2年前ですよ。県の企業誘致を担当する部署に呼ばれたんです。彼らが一番心配していたのは、数がそろうか、ということでした」
その日、熊本市内で面会した不動産会社の会長が話した。「明和不動産」の川口雄一郎氏だ。熊本の賃貸業界を牛耳る重鎮である。
彼が言う「2年前」とは、2021年の年明けすぐの頃で、TSMC(半導体の世界的メーカー)による熊本県菊陽町への工場建設計画が発表される以前のことだった。
県が「そろうか?」と聞いたのは、住宅の数だった。工場建設の最終候補地は、熊本と新潟で割れていた。工場が生み出す雇用の受け皿となる住宅を用意できるか。それは候補地として選ばれる切り札のようにも聞こえた。
「そろえます」
川口氏は即答した。断言できるのには根拠があった。
県から呼び出しを受けた時、ピンとくるものがあった。すぐに社員に指示を出し、熊本市内にある賃貸住宅の空室を調べさせ、どこの部屋がどれくらい空いているのかという情報を集めていた。それで、市内には4000室の空室があることがわかっていた。
「場所を選ばなければ、部屋はいくらだってありますよ。この春竣工の新築も380室あります」。川口氏は自信たっぷりに言った。
県の職員は、台湾人で300室、日本人で700室の合計1000室が必要で、単身とファミリーの割合は500室と500室だと話した。
「定期的に打ち合わせをしましょう」と言って県庁を出ると、すぐさま会社に戻り、川口氏は動いた。
自ら陣頭指揮を執り、土地を押さえにかかったのだ。全営業社員を集め、1700世帯の農家を一気に回った。1軒ずつ、「土地を売ってください」と訪問し、2年で3周するスピードで、他社を圧倒した。そして買い上げた土地に、新築の賃貸マンションを次々と建てていった。ちなみに2023年8月に私が訪問した時点で、34棟が建築中だった。
