「熊本の経済効果でおそらく10兆円は動く」
さらに手を打っておいたことがある。それはいずれ始まる部屋探しを見越しての宣伝活動だった。新工場では1700名が働くと発表されていた。
川口氏は、TSMCの台湾本社内にあるデジタルサイネージで、明和不動産のCMを流させてほしいと自ら交渉し、広告枠を勝ち取った。熊本県が温泉や観光地をアピールするCMと並列で同社を宣伝する映像が流れた。同時に菊陽町の町役場に近い場所に土地を買い、新しい賃貸仲介ショップまで建てた。工場の建設現場近くの道路沿いには、「“ウレシイ”住まい探し 賃貸・売買・管理 お任せください!」という目立つ看板も立て徹底的に「明和不動産」の社名をアピールした。
「国は熊本の経済効果を10年で4兆3000億円と言ってるけど、俺はそんなもんじゃないと思ってますよ。おそらく10兆は動く。とんでもないことになる」(川口氏)
賃貸住宅の建設で特に力を入れたのが、TSMCが従業員の住む場所として推奨する4地区だった。
「A地区、B地区、C地区、D地区の四つです。A地区は熊本駅周辺、B地区は水前寺、C地区が共栄橋、D地区は大津町。この4地区を狙い撃ちしてウチは建てました」
台湾から600名近い技術者とその家族が来るという情報もあった。彼らはエリートだ。賃貸住宅の仕様は、ありきたりのアパートではなく、高額所得者が好むような高級仕様にした。家賃も相場より高く設定した。
「大卒の初任給は、うちの会社が21万円です。肥後銀行が21万5000円。工場は27万5000円出すそうです。社員食堂のおばちゃんの時給だって3500円なんだから」
2024年4月、工場運営を担うTSMCの子会社、「JASM」には256名もの新入社員が入社し話題を呼んだ。川口氏はこうしたことをすべて見越して先手先手で動いてきた。県に呼ばれ、住宅の数を「そろえます」と言い切った時から、戦いは始まっていたのだ。
吉松 こころ(よしまつ こころ)
1977年鹿児島県伊佐市生まれ。19歳で進学を機に上京。2003年7月に、業界紙「週刊全国賃貸住宅新聞」に入社。主に、広告営業を担当する。営業デスク、編集デスク、取締役を経て、14年に退職。約12年間の記者生活では、全国の賃貸管理会社や大家、投資家、建設会社を取材して回った。15年に独立。不動産業界向けのミニ通信社、「株式会社Hello News」を起業し、不動産・建築の世界で生きる人々を取材している。過去に週刊新潮、AERA、現代ビジネス、FACTAなどで記事を執筆。
