「九州中の杭を集めろ」と社員に大号令

 明和不動産は、1981年創業で、川口会長が28歳の時に興した。熊本を拠点に賃貸住宅の管理や仲介を行うが、福岡や鹿児島、東京にも出店し事業範囲を拡大している。現在73歳の川口氏は会長職で、社長は、次男の英之介氏が務める。

 親分肌で決断が早く、歯に衣着せぬ発言で知られる川口会長は若い頃から人望が厚く、長年、賃貸業界や地域の活性化にも取り組んできた。公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会の会長といった業界の要職も務めていた。

 特に地震対応での貢献は大きい。東日本大震災から使われるようになった「みなし仮設住宅」についてはその仕組み作りに奔走し、生みの親ともいえる存在だ。みなし仮設住宅とは、自治体がすでにある民間の賃貸住宅の空室を借り上げて、被災者に貸し出すというもの。仮設住宅を建てるには時間もコストもかかるため、川口氏が既存の賃貸住宅を活用すべきだと訴え実現した。

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 2016年の熊本地震では、会社や自らも被災しながら、現場の最前線で復旧作業に当たった。こうした活動が評価され、2022年には、旭日双光章を受章している。

 TSMC誘致が正式に発表された後、土地の価格はどんどん上がって行った。それまで坪10万円程度だったのが、40万円、50万円になっていった。

 サプライチェーンや関連企業など、80社以上が続々とやってきた。ソニーグループや東京エレクトロンなどが近接地域への工場建設を発表した。物流会社や、クリーンルームを作る会社、専門のクリーニング会社などもきた。人口が増えれば、学校、病院、飲食店、スーパー、床屋もできる。

「九州中の杭を集めろ」

 川口氏は社員に大号令を出した。

 半導体の生産には大量の水がいる。半導体の工場では、1日数万トンを使うとも言われる。熊本が選ばれたのも地下水が豊富で水質が良いことが理由の一つだった。確かに、大きな地下水帯があると言われる阿蘇外輪山を菊陽町から見渡した時、マイナスイオンが目に見えるんじゃないかと思ったほど豊かな水の恵みを感じた。

「その分地盤が悪いんですよ。建物を建てようと思ったらかなり深く杭を打たないといけないんです」(川口氏)

 TSMC進出に合わせて県外から様々な飲食チェーンがやってきたが、そうした事情までは分からなかったのか地盤の悪い地域を坪40万円以上で買って行ったところもあった。

 川口氏はいずれ杭が不足し高騰することを見越して、大量の杭を集めていた。

「杭やら何やらが足りなくなったら建築費なんてどんどん釣り上がっていきますから。建築費が2倍になったんじゃ、せっかく建てても利回りが合わないでしょう」

 新築した賃貸マンションは、1棟ごと投資家に販売する。価格は6000万円から、高いものだと8億円くらいだ。一番多い価格帯は3億円台で、大阪や東京の投資家が購入した。当時建築中だった前述の34棟は、すでに完売済みだと話した。

 2024年1月に、NHKが第2工場建設をニュース速報で伝える半年も前のことである。