滑走路の上にタワマンが続々と
しかしただでさえ人口密度キツキツの香港に、移住者たちの住む場所はあるのか。香港人で不動産投資家の簡國文氏に問うと、「巨大なマンション群が次々と新築されている一帯がありますから、明日見に行きましょう」と言われた。
いやいや、行ったら大変なことになっていた。「香港アプローチ」で知られる啓徳空港こと旧香港国際空港の跡地、ならぬ元滑走路の上がその舞台だった。ヴィクトリアハーバーの上に延びる一直線の道、長さ約3キロメートル、横幅60メートルの海の上の滑走路、その上に、新しいタワマンが続々と建設中だったのだ。
もちろん、基礎や土台はどうなっているのかとか、杭は打ったのかとか、建築素人でも考え得る質問はすべて投げかけたが、答えられる人は誰もいなかった。とにかくもうそこには、6万人が住めるだけの新築マンションが立ち並んでいたのだ。香港に住む簡氏でさえ、その光景を目の前にした時は面食らっていた。コロナ後の1~2年で一気に進んだと見られる。
新しくできた地下鉄、啓徳駅が、元滑走路に一番近い駅だ。まずその駅周辺だが、銀座の高級商業施設・銀座シックスを縦に4つ、横に2つつなげたような巨大な商業施設が4棟くらいドンドンドンと建っていた。そのうちの1棟の1階はテスラの販売店が独占していた。「マンション購入者の皆さん、ついでに新車はいかが」と言わんばかりだ。
次に目に入ったのが、びっしりと軒を連ねる派手な店だ。店舗のガラス面には、新築マンション情報を伝える大量のポスターやチラシが掲示してあった。看板を見ると、「○×物業」「○△畳業」「○□地産」とある。物業、畳業、地産は、不動産会社を表す言葉だ。そうした店が20軒はあった。
あえてチラシ配りをしていたアルバイト風の若者に引っかかってみる。相手は慣れた調子でスマホをいじり、「担当を呼ぶ」という。数分後、茶色のTシャツとチノパンに、白いスニーカー姿の青年が現れた。年齢は20歳代後半くらいだ。
名刺交換はない。タブレットの画面を見せ、「今残っている部屋はこれと、これとこれ」といったようなことを言い、「とにかく現地へ行こう」と言う。アプリでタクシーを呼ぶと、それに乗り込み、滑走路を走る。道路の左右は工事中の新築マンションが隙間なく建っている。中国現代建設や中国建設といった看板と、地元香港企業と見られる看板が交互に出てくる。外観もそうだが、とにかく都市開発の統一感はゼロだ。滑走路の一番先、海に向かって、競い合うようにただ建ち進むのみで、異様なエネルギーで満ちていた。
まだ完成前、内装の仕上げの段階だが室内を見られるという。エントランスにはレッドカーペットが敷かれ、モデルルーム見学者の気持ちを高揚させていたが、その横を生コンを積んだ巨大ミキサー車や建築資材を載せたダンプカーがひっきりなしに出入りしている。ガードマンはいない。工事作業員と内見家族とセールススタッフが入り乱れていた。