都心部の物件が急激に値上がりしている。20年以上にわたり不動産業界を取材してきた吉松こころ氏は「今ほど家が買えなくなったことを痛切に感じることはない」と語る。そんな中、10億円を超えるような高額物件を購入しているのは、主に香港や中国の富裕層だ。
ここでは吉松氏の『強欲不動産 令和バブルの熱源に迫る』(文春新書)より一部を抜粋してお届けする。日本の不動産を扱う香港の“やり手社長”が「今一番アツいのは大阪」と語る意外な理由とは……。(全5回の3回目/続きを読む)
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「日本人は経営が下手」
「廃業寸前のホテルや旅館があればすぐにでも買いたいです。民泊用の一軒家や区分所有マンションも買いたい。日本人は経営が下手ですよね。なんであんなに旅行者が来ているのに潰れるホテルがあるのか、まったく分かりません」
2025年、5月中旬の香港だった。香港人を相手に日本の不動産を売る日本企業の営業現場に同席する機会を得た。商談の相手は、日本でいう三井不動産のような大企業から、小規模な不動産会社、個人のブローカー、「ピカソやダリの絵、タイタニックから引き揚げたワインボトルなど数え切れないコレクションがあるわ」と話す富豪の夫人など多種多様で、計9社12名に上った。
冒頭のホテルを所望した男は、正社員2人の個人経営に近い不動産会社の社長、ゲリー氏だ。いかにもやり手という雰囲気で、真っ白いTシャツに清潔感のある青いジャケットを羽織り、その胸ポケットには白いハンカチが折り目正しく挿されていた。
「山手線内であれば、ボロ物件でも欲しいです。リフォームすればいいから。万博の影響で人が集まる大阪や外国人に人気の京都や浅草なら買いたい人はたくさんいます。そういう物件の情報があれば、すぐにでもください。容積率オーバーでもいいです」
容積率オーバーという言葉を聞いて目が点になった。
──そんな専門用語まで知っているわけ?
都市計画法で定められた容積率、つまり敷地面積に対する建物の延べ床面積の割合が法令の上限を超えた建物のことで、既存不適格建築物もしくは違法建築物を意味する。違法に建て増しされたケースが多く、日本の不動産会社なら「まともな人は手を出さない」と話す代物である。銀行も貸さないため現金で買うしかない。ただ買い手がいない分、格安だ。ゲリー氏にとっては、「だからこそ投資の妙味がある」ということなのだろう。
