「世界の製造大国」を目指す中国。政冷経熱の日中関係はどうすべきか? アメリカ外交問題評議会のグローバルボードメンバーを務める新浪剛史氏が論じます。サントリーホールディングス社長というビジネスマンとして、また、日本経済の指針を議論する経済財政諮問会議メンバーとして考える「経済外交」日本の進む道とは?

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40年前に比べ、中国も失うものが多くなってきた

――日中関係は、よく政冷経熱(政治では敵対、経済では協調している関係)などと言われますが、現在どのような状況にあるのでしょうか。

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新浪 政治的な視点から見れば、現在の日米のような同盟関係になることは非常に難しいでしょう。やはり民主主義国家と一党独裁国家が互いに深い信頼を築くことは困難です。ただ、日中は互いに秋波を送り合っています。今年5月に李克強首相が来日したのも大きなメッセージです。安倍総理も今秋に訪中を予定しており、いずれかのタイミングで習近平主席が来日する可能性も高くなっています。実際、中国も東シナ海の問題を一時棚上げ状態にしている状況です。その意味では、政治もまったく冷え込んでいるわけではないのです。

©AFLO

――中国も日本も互いに配慮しているということでしょうか。

©鈴木七絵/文藝春秋

新浪 日本もそれなりの外交力を持っているということです。例えば、中国は尖閣諸島に漁船を派遣し、日本を刺激するような目立った動きは控えている。これは大きな進歩です。

 さらに、北朝鮮問題もあり、日米が協調している現状、中国は目立った行動はとれない。むしろ、日本とは表立ってぶつかるより、和戦を選択しているのではないでしょうか。日中ともに関係性を前進させたいという思惑があるのです。なぜ中国は軟化したのか。1つには安倍総理とトランプ大統領との関係性が抑止効果につながっています。中国もアメリカとこのまま敵対していてもメリットはありません。むしろ失うもののほうが多いはずです。中国も40年前と比べて、政治的にも経済的にも失うものが多くなったのです。

 中国の「一帯一路」イニシアティブもそうです。日中関係が改善に向かうにつれ、安倍総理は何度も連携へのシグナルを送っています。日本の財界が訪中団を頻繁に企画しているのも、一つのメッセージなのです。

日本の財界も中国への関心は高い

――政治は改善傾向にあるとして、経済はいかがですか。

新浪 やはり中国の経済力は無視できません。日本も中国の経済成長は利用したい。その意味では、「一帯一路」イニシアティブについても、中国国内以外は、日本はインフラ投資では協力することを明確化しているわけです。日本のインフラ技術は世界的にも評価が高い。日本がつくった橋や道路は持続性があり非常に安定しています。もちろん中国も日本のインフラ技術の高さに期待している。だからこそ、中国は「一帯一路」に日本の技術力をいかに戦略的に使うかを当初から考えていたと思います。