詐欺額を「売上」、被害者を「顧客」と呼ぶ

 詐欺拠点の日常は、驚くほど普通の会社に似ている。「朝8時に出勤して架電を開始し、午後4時に終了します。もちろん昼食休憩もあります」と安田氏は語る。架電終了後は夕方6時まで、PDCAサイクルを回して反省会を行う。台本に矛盾があればシナリオを書き換える。

 一般社員は6時に退勤だが、部長クラスは上層部の人間たちとさらに売上について話し合い、夜8時まで残業する。「本当に普通の会社と変わりません」。彼らは詐欺で得た金額を「売上」と呼び、被害者を「顧客」と呼ぶ。完全に会社として認識しているのである。

 

 安田氏が聞いた話によれば、「日本で真面目に会社員ができる人であれば、非常に高い売上を上げられる」という。日本国内の特殊詐欺被害額は2024年10月までで約1000億円。そのうち、カンボジアやミャンマーの拠点から来た電話がきっかけになった事件は、「少なく見積もっても半分以上」だ。

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「顧客に最後まで寄り添え」「顧客の話を傾聴しろ」

 この部長が語る詐欺の極意は、「人間力」だという。彼は部下に対し、「顧客に最後まで寄り添え」「顧客の話を傾聴しろ」と教育していた。

 実際、ATMで振り込むボタンを押すまで、高齢者を「最後まで気を配り、苛立たせることなく、しっかりとケアするように」と指導していたという。この徹底した「顧客サービス」の結果が、3年で50億円という途方もない被害額なのである。

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