カンボジアの特殊詐欺拠点で「部長」を務めた日本人男性は、なぜわざわざ海外へ渡って詐欺に手を染めたのか。紀実作家の安田峰俊氏が接触したこの人物の背景には、日本社会の闇が横たわっていた。巧妙な手口と、犯罪組織に身を投じざるを得なかった人々の実態に迫る。(全2回の2回目/はじめから読む)
(初出:「文藝春秋PLUS」 2026年1月14日配信)
「人情味のある警察役」を頼り切るまで
カンボジアの詐欺拠点が用いる手口は、極めて巧妙だ。警察を騙るだけの粗雑な手法とは異なり、3人1組でターゲットを追い詰めていく。
まず「1線」として、女性か初心者を当てる。彼らはソフトバンクや三井住友銀行といった有名企業のカスタマーサービスを名乗り、「お客様の口座が不正に用いられている」と告げる。問題があっても「申し訳ありません、新人なものですから」と言えば通る。テレアポとして自然な入り方だ。
それから、警察役の「2線」につなぐ。この警察役は「非常に人情味のある警察官」で、怖くない。高齢者に優しく接し、一旦はマネーロンダリング容疑を否定してみせる。しかし「立件してしまっているので」と言い、検事役の「3線」に引き継ぐ。
この3線が「非常に厳しい検事」なのだ。部長クラスの最も上手い人物が演じる。被害者が「立件を取り下げてください」と頼むと、「無理です」と唐突に電話を切る。2、3回は冷たく切るという。そうすると被害者はどんどん気弱になり、優しい2線の警察役にすべて頼ってしまう。
「すでに立件されて懲役何年の可能性がある」
この過程で、「あなたの口座がマネーロンダリングに使われている」「すでに立件されて懲役何年の可能性がある」という情報が刷り込まれる。一度信じてしまうと、「すでにもう動き始めているため、変更できません」という説明で、その後の多少無理なシナリオも信じてしまうのだという。
最終的には、補填のために金融庁の職員が訪問するので、指定された金額を渡すように誘導する。振り込みではなく手渡しの場合もあれば、金に変えさせて渡させる場合もある。銀行によっては厳しい時もあり、手法はさまざまだという。
貧困、性的虐待、ネグレクトが背景に
こうした巧妙な詐欺を行う人物は、なぜカンボジアへ渡ったのか。安田氏が取材した範囲では、海外出稼ぎ風俗女性や半グレ的存在に共通する特徴があるという。
「海外ヤミ社会で業績を上げている日本人は、地頭が非常に良く、話していても感じが良い。好感が持てる若者が多いんです。親であれば自分の子供の配偶者として望み、店の経営者であればぜひ雇いたいと思うようなタイプ」
しかし一方で、「家庭が非常に貧しかったり、虐待や性的虐待、ネグレクトを経験していたり」という背景を抱えた人も多いのだという。
