2023年5月末、近藤プロデューサーから連絡がきた。『万事快調』の原作権が空いたとのことだった。近藤さんの嗅覚は素晴らしく、彼が面白い原作というならきっとそうなんだろうとすぐに本屋に行った。近所の本屋を3軒ほど回ったがどこにも在庫はなし、ただすぐに読まなければという直感から結局図書館で借りることとなった。夕方に借りて一心不乱に読み耽った。ああ、近藤さんは僕にこの原作を撮らせたいのか。そのことが嬉しくて仕方なかった。そしてこの原作をどうしても撮りたいと思った。

児山隆監督

なかなか出資が決まらなかった

 かつて『ピンポン』などをプロデュースしたレジェンド小川さんと近藤さんがタッグを組むことになり、製作は進行していった。小川さんのクリエイティブに対する意見はすべからく的確で、とにかく刺激的だったことを憶えている。

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 しかしながら制作は決して「万事快調」ではなかった。内容的なものもあり出資がなかなか決まらなかった。おそらく自分自身の実績不足も影響しているのだろう、これほどに映画を撮ることは困難なことだとあらためて痛感した。けれど下を向いていてもしかたない、自分ができる準備はできるだけやろう、そう思い舞台となる東海村にカメラマンの斉藤さん、照明の佐伯くん、スタイリストのよしださんとシナハンに行った。主人公たちがこの場所でどのように息をしているのか、そんなことを考えている時間は制作が決まらないということを一時忘れさせるほど愉しかったことを憶えている。