NHKの教育番組『おかあさんといっしょ』の「たいそうのおにいさん」として親しまれた佐藤弘道さん(57)は、2024年6月に10万人に1人と言われる希少疾患「脊髄梗塞」を発症し、下半身に麻痺が残った。現在は自分の足で歩けるまでに回復したが、「見えない障害」に苦しみながらも、同じ病気の患者のために活動を続けている。

佐藤弘道さん 写真=末永裕樹 /文藝春秋

「左足だけが沼に落っこちるように『ぬるっ』と…」

 佐藤さんが脊髄梗塞を発症したのは2024年6月2日。その朝、左足に軽いしびれを感じながらも気にせず、地方での保育園研修会に向かう準備をしていた。

「準備し終えて玄関にキャリーケースを持っていこうとしたら、左足だけが沼に落っこちるように『ぬるっ』と落ちていったんです。力が入らなくて、キャリーケースを持ったまま、リビングで転んでしまって」と佐藤さんは当時を振り返る。

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 それでも自分で車を運転して羽田空港まで行った佐藤さんだったが、キャリーケースを預けた瞬間から状態は急速に悪化。腰に激しい痛みが走り、吐き気も出てきた。

「人生でこんなに痛いことはないだろうというぐらい痛くて。骨盤の周り、腰回りが、ギューッと締め付けられるような痛みですね」と、当時の苦しみを語る。

 飛行機に搭乗し、目的地に到着したものの、下半身の感覚は完全に失われていた。「足が動かない、感覚がなくなってしまって」と佐藤さん。救急外来で診察を受け、MRI検査の結果、「脊髄炎か脊髄梗塞かもしれない」と診断された。

 佐藤さんは病名を聞いてスマホで検索し、「もう治らない」と知り絶望。「ただただ絶望でしたね。まず、わけが分かりませんでした。『治らない病気なんてあるんだ』と。腰から下の感覚がゼロである状態が、ずっと続くのかって」と当時の心境を語る。

入院中の佐藤さん

 しかし、息子たちからの「生きていれば大丈夫」「何の競技で車椅子の選手になったらいいのか、僕らで考えておくから」といった前向きな言葉に支えられ、「完治」を目指すのではなく「機能回復」を目指す方向へと考え方を切り替えた。

 入院中のリハビリと自主トレーニングを徹底し、発症から6週間後には歩行器を使って歩けるようになった。退院後も継続したリハビリにより、今では杖なしで歩けるまでに回復している。

 現在の佐藤さんは「当たり前のことが当たり前じゃない」という実感を強く持っている。「歩けることってこんなにうれしいことなんだ、立てることってこんなに幸せなことなんだ」と語る佐藤さんは、脊髄梗塞を指定難病にするための活動も行っている。

「今は暗闇の中にいるようで、未来が見えないかもしれません。僕もそうでした。でも、どうか諦めないでほしいんです」と同じ病と闘う人たちへのメッセージを送っている。

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