現代社会に根を張る「ルッキズム(外見至上主義)」の風潮。その裏には、進化の過程で刻まれた生存本能と、発達の過程で学習する顔認知のメカニズムがある。顔研究の第一人者・山口真美氏の新著『美人はそれほど得しない?』(早川書房)は、私たちが顔を認知する仕組みを科学的に“解剖”する書籍だ。
「マスクを外した顔を見て、お互いにがっかりしてしまった……」。コロナ禍を経て、誰もが一度は耳にし、あるいは密かに感じたことのあるこの違和感。なぜ私たちは、隠された素顔を理想化し、勝手に期待を膨らませてしまうのか。以下、書籍より一部抜粋して紹介する。(全2回中の2回目/最初から読む)
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「マスクをした顔のほうが魅力的」なのか?
女性の後ろ姿に魅力を感じ、その女性が振り返ると予想以上に美しく見える、そんな感動をもたらす「見返り美人」は、浮世絵の題材にあります。しかしながら、実際にはこうした女性は存在しないという研究があります。実験の結果は、振り返った顔は、予想よりも低く評価されるというものでした。人が何を基準に美醜の判断をしているかの一端を示す研究です。
同じようにコロナ禍の際に、マスク越しに出会った人同士、マスクを外した顔を互いに見て、お互いがっかりした気になったという話をよく聞きました。見返り美人も、マスクで隠された顔も、なぜ実際よりも美しく予想してしまうのでしょうか。
魅力度の異なる女性の、マスクをしている顔としていない顔を評価する実験があります。実験の結果、中程度の魅力と魅力の低い女性の場合は、マスクをした顔のほうが魅力的と評価されました。その一方で、魅力的な女性には、このようなマスクの効果はありませんでした。
人間の頭の中には“美の基準”がある
見返り美人も、マスクの顔も、顔を見るメカニズムとの関わりがあるのです。それが「顔認識空間モデル」です。
人の頭の中には、顔を区別するための基準が作られています。生まれてから見た顔を平均化することによって作られる基準で、それが美の基準ともなっているのでしょう。つまり、女性の後ろ姿を見て想像する顔も、マスクの下に思い描く顔も、この基準となる顔になってしまうのです。
