また、困難に直面した時に人に「負担を割り勘」してもらおうと、素直に助けを求めることも難しくなります。自分の弱みを見せたくない、負けを認めたくない、というプライドが邪魔をするから。これらはすべて、「人と比べる」ことから生まれる心理です。
「人と比べない」ことで、私たちはようやく自分自身と向き合うことができるはずです。
「自分は何を持っているのか」「自分は何ができるのか」「自分は何を大切にしたいのか」。他人の物差しではなく、自分自身の内なる声に耳を傾けることができるようになるんです。そして、その自分自身の「福」(財産、能力、経験)を客観的に見つめ、これをどう活かすか、誰とどう分かち合えば皆が幸せになれるのか、を考えられるようになる。これこそが、「割り勘思考」の出発点なんだと、私は胸を張って申し上げます。
「惜福」(今現在自分が持っている幸福や恵みを大切にして、決して粗末にしたり、無駄遣いしたりしない、という意味)の精神も、「人と比べない」からこそ、より深く実践できます。他人がどれだけ持っているかではなく、今、自分が持っているものに目を向け、それを大切にする。些細なことにも感謝できるようになる。これは、自分自身の内面を豊かにすることにつながります。
落語の世界は「比べられてばかり」
「植福」に至っては、まさに「人と比べない」境地です。未来の誰かのために種を蒔く行為は、自分が今すぐに評価されるか、他人より優れているかとはまったく関係ありません。
見返りを期待せず、ひたすら未来の「福」を願って行動する。これは、「人と比べる」競争原理からは生まれにくい、利他的な精神です。
落語家なんて、まさに比べられる世界です。師匠や先輩と比べられ、同期と比べられ、人気や実力で常に比較される。でも、そこで「あの人より売れたい」とか「あの人より上手くなりたい」という思いだけにとらわれていると、必ず行き詰まります。
そうではなく、師匠から教わったネタをどう自分なりに深めるか、自分の声や体を使ってどう表現するか、どうすればお客様に喜んでいただけるかといった自分自身の芸と向き合う姿勢が必要なのです。