「それほど強く思ったことはなかったですけど……まあ、やっぱり出たいですよ(笑)。それでも自分に需要がなければ、どれだけ『出たい!』と言ってもしかたがない。まずはお話をいただかないと始まらないですから」
演じる喜久雄は、日本語と英語の両方でフィリップと話をする。台詞指導のショーン村松によると、柄本は休みの大半を練習に費やすなど入念な準備に取り組んだという。
もっとも、柄本自身は「一生懸命やりました、としか言えません」と笑った。日本語と英語、異なる言語で演じることについて尋ねると、「やることは同じ。ただ、台本に書いてあることを言うだけです」という。
「ぞんざいな言い方だと思われるでしょう? だけど、言ってみるといいですよ、言えないから。他人の書いた台詞なので、“ただ言う”といったって、“言えない”自分が立ちはだかります。『台』の『詞(ことば)』と書いて『せりふ』というくらい、他人の台詞を自分のことばに昇華することは難しい。まずできない、と言っていいでしょう」
舞台では自らのライフワークとして、アントン・チェーホフの戯曲などに繰り返し取り組んでいる。しかし再演を何度重ねても、やはり台詞は「言えない」ものだという。「自分自身が年齢を重ね、周りの環境も変わっていくわけですから当然ですよね」
長谷川喜久雄という人を探す旅に出た
インタビューのなかで、柄本はたびたび「台詞と戦う」と口にした。「今回でいえば、台詞というものと闘いながら、長谷川喜久雄という人を探す旅に出たわけです」と。
演じることを生業にしている喜久雄だが、老いと病のため、次第に本来の自分さえ保てなくなっていく。その様子を、柄本は「他人事ではありません。身近なところでも、こうした変化を経験している方はいますから」と語った。「それでも、自分がそういう役をちゃんと演じられるかどうかは別問題。だから難しいし、『頑張りました』としか言えないんです」
撮影は全編日本で行われたが、柄本は現場を振り返って「日本映画とはまるで違いました。外国の方がたくさんいて、英語も飛び交っていたから」と話す。もっとも、「どんな作品も台本や顔ぶれは毎回違うもの。そういう意味では常に新しく、いつもゼロ地点から始まります」とも付け加えた。

