グッズの企画からSNSの広報まで担当しているのは、久保田社長本人だ。「社員には菓子作りに専念してもらいたいから」と、発売直前まで従業員もグッズの詳細は知らされていないと言う。

なかでも反響が大きかったのが、2024年の「鳩の日」に販売した「一枚入り缶」だ。限定色の「一枚入り缶セット」を求め、当日は本店から鶴岡八幡宮近くまで、長蛇の列ができた。その結果、前年の倍以上の売上を記録。さらに、このグッズはのちに「2025グッドデザイン金賞」を受賞している。

「本店限定グッズ」にこだわるワケ

ここまでグッズの展開を広げたのは、「お客様を“お得意様”に、お得意様を“ご贔屓様”に」という先代の考えを引き継いでのことだ。しかし、ここで冒頭の疑問が蘇ってくる。「なぜ、利益の薄いグッズを開発し続けているのか」、そして「なぜ、本店での限定販売にこだわっているのか」という点だ。

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そこで、「もう少し価格を上げて全店販売すれば、もっと売上が上がるのではないか」と、率直な疑問をぶつけてみた。

「『売上を上げたいんならグッズだ』っていう意識はありますよ。実際にそうすれば、恐らく今の数倍は売れるんじゃないでしょうか。ただ、グッズはやっぱり『鎌倉に来てほしい』という気持ちだけでやってますからね」

ここで少し考える素振りを見せたあと、静かに続ける。

「変な話ですけど、店がこの土地になかったら、こんなに売れてないかもしれませんよ。鎌倉の街が有名になっていくことによって、『豊島屋』も知られるようになったという側面はあると思うんです。であれば、やっぱり街に感謝だなと。

……でも、最近グッズだけしか買わない人もいるんで、『うち、和菓子屋だぞ!』って言いたくなっちゃうんですけどね(笑)」

良いのか悪いのか――、思惑通りの成果にはつながっているようだ。

「もう美味しいと思えない」

何もかもが順風満帆に見える「豊島屋」だが、聞けば久保田社長は一つの危機感を募らせていると言う。それは、「売上全体の8割を『鳩サブレー』に依存している」現実だ。店では年間約100種類の和菓子を製造・販売しているが、それらは売上の2割に留まっている。