「旦那」でありたい

取材の最後、久保田社長はこう締めくくった。

「いい意味で、昔で言う『旦那』でいたいですよね」

その言葉で思い出したのが、2013年(平成25年)に「豊島屋」が「由比ガ浜海水浴場・材木座海水浴場・腰越海水浴場」の命名権を取得したことだ。年間1200万円で10年間の権利を取得したが、なぜか名称は変えなかった。

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理由を尋ねると、「地元住民から『海水浴場の名前を変えないでほしい』という声が強く、他社に買われて名称が変わるのを避けたかったから」だと言う。

「目指すのは、鎌倉という街の『旦那』なんですね」と筆者が言うと、「いやいや、そこまではお金がないからできません(笑)ただ、鎌倉を良くしたいな、と思って」と笑う。

「極論を言えば、うちで買い物をしなくてもいいので、鎌倉へ足を運んでほしい」

その穏やかな眼差しに、スッと胸に落ちてくるものがあった。

「豊島屋」は「和菓子」を売っているのではない。「鎌倉」を売っているのだ――。取材を終えて本店を後にするとき、ふと振り返ると、街を見守る大きな「鳩三郎」と目が合ったような気がした。

弓橋 紗耶(ゆみはし・さや)
フリーライター
1987年、神奈川県生まれ。2010年からインフラ企業で営業・営業企画を経験し、2022年に独立。現在は、ストーリーライティングを軸とした取材・記事執筆などを手がける。企業の広報から経営者インタビューまで、営業現場で培った人との対話力を活かし、企業の持つ本当の価値や想いを言葉にして伝えている。
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