2008年(平成20年)に代表取締役に就任すると、「守るもの」と「変えるもの」のハイブリッドで経営を進めてきた。
まず、これまで「守り続けてきたもの」は、「鳩サブレー」のレシピだ。原材料は「小麦粉・砂糖・バター・鶏卵・膨張剤」とシンプルで、これは約130年前の開発当初から変わっていない。
しかし、これだけのロングセラー商品なら、他のフレーバーや季節ごとの限定品を販売していてもおかしくはないだろう。そこで、「なぜ1種類の味しか作らないのか」と聞くと、「僕の目が黒いうちは、絶対やりません」と即答された。
「他社さんが種類を増やしたり、限定商品を出すケースはたくさん見ますけど、やっぱり本来の味が一番美味しいですよ。今の味を超えるものが作れるならいいんですけど……でも、僕はできないと思う。あの形で、あの大きさで、あの味だから、『鳩サブレー』なんです」
射抜くようなその視線は、並々ならぬ決意を物語っていた。
味を守るための事業多角化
一方で、積極的に「変えているもの」もある。それが、原材料だ。
「小麦粉も砂糖もバターも、原料の質がどんどん良くなっていますからね。同じレシピではありますが、発売当初よりも美味しくなっているはずです」
また、事業の多角化も積極的に進めており、2014年には自家製パンが楽しめる「鎌倉駅前 扉店」をオープン。続いて、2015年に洋菓子を販売する「豊島屋洋菓子舗 置石」、2022年に焼き立てワッフルを提供する「豊島屋 瀬戸小路」を開業した。
さらに手を広げたのが、冒頭で紹介したグッズ販売だ。「鳩これくしょん」と題し、常時グッズの開発・販売を進めた。過去をさかのぼると、これまでに50種類以上のグッズが生まれている。
「社員には菓子作りに専念してもらいたい」
ケースが名刺入れとしても使える、あぶらとり紙。某掃除機メーカーを彷彿とさせる、消しゴムクリーナー。「鳩サブレー」のマークが浮かび上がる、ペンライト。実用性が高いものから、「なんでこれ作ったの?」とつい笑ってしまう商品まで、バリエーションに富んでいる。なかには思ったよりも売れず、廃盤になってしまったものもあるらしい。