「シリコンバレーのドン」の異名をとるベンチャー投資家であり、著名な言論人でもあるピーター・ティール氏。
今回、宗教系誌First Thingsに2025年10月1日付で発表された論考(原題 Peter Thiel & Sam Wolfe, Voyages to the End of the World(「世界の終わりへの航海」)が全訳され、その後半部分が「文藝春秋」3月号で「『ワンピース』のルフィはキリストだ」として掲載された。
今回は論考の中から、尾田栄一郎の漫画『ワンピース(ONE PIECE)』への考察を中心に紹介したい。(訳・解説 会田弘継)
◆◆◆
世界を席巻する『ワンピース』が示す“第三の道”
『ウォッチメン』が完結してから4年後、冷戦も終結した。父ブッシュ大統領は大国間の衝突のない「新世界秩序」の始まりを宣言した。後継者のビル・クリントンは軍縮で得た「平和の配当」で財政赤字解消に努め、貿易協定でグローバル化を加速させた。そうした平穏な時代に、暴れん坊のような尾田栄一郎が『ワンピース(ONE PIECE)』を執筆し始めた。この漫画は、それから28年で1100話を超えて、今やっと「最終章」に入っている。
本稿の読者自身が『ワンピース』について聞いたことがなくても、読者の子どもたちは知っているだろう。『ワンピース』の累計発行部数は5億7000万部を突破したが、そこにはオンラインで連載を読んだり、それ以上に人気のアニメ版を見ている数百、いや数千万のファンは含まれていない。SNSレディットの掲示板r/OnePieceのディスカッションフォーラムは520万人のフォロワーを擁し、フィクション作品としては最多である(比較のために、たとえばr/StarWarsは460万人、r/HarryPotterは360万人である)。
読者が愛するのは、アクションシーンやトールキン風に構築される別世界だけでなく、難解な作風だ。作者が用いる隠喩や駄洒落、数秘術的謎などの意味を解き明かすことが、読者の共同プロジェクトとなっている。数百話にわたり断片的に明かされる真実が、反キリストの壮大な歴史の流れとして結実していく様は、すべての決定的要素で『ウォッチメン』を凌駕している。

