『この国のかたち』は集大成
これを読むと、『この国のかたち』だけでなく、司馬さんが書いた小説も、司馬さんが敗戦時に抱いた「なんとおろかな国にうまれたことかとおもった」「むかしは、そうではなかったのではないか」という問いへの答えであったことがよくわかります。ですから、『この国のかたち』は、司馬さんの絶筆にして集大成なのです。
司馬さんは『この国のかたち』で、これまで小説を書くために蓄積してきた膨大な知識と、そこから得た見識でもって、「なぜこんなおろかな国になってしまったのか」の答えを探っています。「おろかな国」と名指されているのは、日露戦争が終わった1905年から1945年の敗戦までの日本のことです。司馬さんはこの40年を「異胎の時代」と名づけました。そして、そのような日本の歴史全体から見ると極めて異常な時代が出来したのはなぜなのかを明治、江戸、戦国……と過去を振り返りながら考えていきます。
30年前に司馬さんの急逝によって途絶してしまったこの探求を2026年を生きる私たちは今こそ読むべきだと思います。
その理由は、「なぜこんなおろかな国になってしまったのか」という司馬さんの問いが、詰まるところ「なぜ日本は19世紀から20世紀にかけて世界を巻き込んでいった技術革命・軍事革命への対応を誤ったのか」という問いに言い換えられるからです。
18世紀にイギリスで始まった産業革命は、蒸気機関に続く技術革命をもたらし、19世紀には内燃機関(エンジン)が実用化されます。西欧諸国はそれによって、さらに工業化を進め、綿製品などの世界商品を輸出することで、国を富ませていきました。
それと並行して、西欧諸国は身分制を改めて、「国民国家」を形成し、国全体を工場化しました。国民に義務教育を施して、文字と計算を教え、工場で効率的に商品を生産できる労働力を育てました。徴兵制を敷いて、男子を訓練し、国家への忠誠心を叩き込み、強い軍隊を作りました。自国の防衛だけでなく、世界商品を生産するための原材料となる資源と、売りさばくための市場(植民地)を確保するのに強い軍隊が必要だったのです。
※本記事の全文(約11000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(磯田道史「AI時代に読むべき司馬遼太郎」)。全文では、以下の内容をお読みいただけます。
・私たちはAI革命の入口にいる
・日本人がリアリズムを見失うとき
・「スーダラ節」の世界が出現している
出典元
【文藝春秋 目次】芥川賞発表 受賞作二作全文掲載 鳥山まこと「時の家」 畠山丑雄「叫び」/忖度なき提言 高市首相の経済政策/緊急座談会 暴君トランプの新帝国主義
2026年3月号
2026年2月10日 発売
1650円(税込)

