『増補改訂版 スマホ時代の哲学』(谷川嘉浩 著)

 著者は1990年生まれ。京都大学の大学院を出た人間・環境学の博士。現在は京都市立芸術大学に講師として勤める傍ら、新進気鋭の若手哲学者として各種メディアで健筆を振るい、企業とのコラボも精力的に行っている。三宅香帆、水野太貴ら同世代で活躍する人文系著者たちが担う潮流「令和人文主義」を提唱したことでも話題を集めた。

 本書はそんな著者が2022年に刊行した初の一般向け著作の増補改訂版。

「当初はビジネスパーソン向けの哲学入門書のような企画を考えていたのですが、やり取りを重ねる中で、著者から『スマホ時代』というキーワードが出て、そのテーマで書いていただくことになりました」(担当編集者の橋本莉奈さん)

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 現代人であれば誰もが気になるテーマを、哲学の知見はもちろん、大衆社会論やメディア論などの知見を領域横断的に駆使して掘り下げる。原著も約2万部を売り上げ、さまざまなジャンルの著名人からの大きな反響を呼んだ。

 増補改訂版では本文を見直し、さらに読者からの質問や感想に答える形でQ&Aなどの新規パートを追加。判型を新書に変更したことも功を奏してか、原著の3倍以上に数字を伸ばしている。

「新書サイズにしようと考えたのは、哲学者の國分功一郎さんの『暇と退屈の倫理学』が文庫化によってベストセラーになっていたことや、著者がちくまプリマー新書から出した『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』が好評だったことが影響しています。判型を変えることで、書店で置かれる棚も変わります。もともと本書では『新世紀エヴァンゲリオン』などのサブカルチャー作品に言及するなど、哲学の枠に収まらない内容を書いていただいていたこともあり、さらなる読者層の広がりを意識しました」(橋本さん)

 関西弁を交えた独特な語り口は、嫌味がなく読みやすい。しかし内容は軽くはない。本書の言葉を借りれば、読むことで物事の見通しがよくなって「スッキリ」するのではなく、思考を触発され続けるような「モヤモヤ」が残る。まさに哲学を学ぶ醍醐味が味わえるというわけだ。30代・40代を中心に、哲学書に馴染みがなかった読者にもそうした硬派な読み応えが響いているようだ。

2025年4月発売。初版8千800部。現在8刷7万6000部(電子含む)