トランプ氏が幾度となく私に語ったこと
1月初旬に行われた、ベネズエラの独裁者ニコラス・マドゥロ氏を拘束した米国の特殊作戦は、「体制転換(レジーム・チェンジ)」よりも「指導者の交代(リーダー・チェンジ)」の色合いが強いものでした。トランプ氏は即座にマドゥロ政権のナンバー2であるデルシー・ロドリゲス氏を支持し、マドゥロ氏の側近や治安機構がトランプ氏の意向に従うことを条件に引き続きベネズエラを統治できる権限を与えました。
この対応は、私にとって意外なものではありませんでした。第一次政権時代に彼の下で働いていた頃、トランプ氏は、2003年の米国によるイラク侵攻が重大な過ちだったと、幾度となく私に語りました。とりわけ彼が愚策とみなしていたのは、侵攻後に何十万人ものイラク兵を解雇し、サダム・フセインの率いたバース党の幹部でない者まで含めて、数万人の政府職員を粛清したことです。トランプ氏は今年1月中旬にも、この長年の持論を繰り返し、2003年に米国が実施した「脱バース化」政策が、イラクとシリアにおいて多大な犠牲を伴う反乱を引き起こしたテロ組織ISISの台頭を助長したと指摘しています。
トランプ氏は、ベネズエラの安定を最優先することで、イラクでの失敗を繰り返すまいとしています。米国がパナマ(1989年)やハイチ(1994年)に侵攻した時と異なり、今回は失脚した独裁者マドゥロ氏に代え、民主的に選ばれた指導者を据える動きは見られません。ノーベル平和賞を受賞したベネズエラ民主化運動の指導者であるマリア・コリーナ・マチャド氏を、ことさらに軽んじる発言までしています。
1月中旬になって、トランプ氏はようやくマチャド氏をホワイトハウスに迎え入れました(彼女はその際、トランプ氏にノーベル平和賞のメダルを手渡しました)。会談後、トランプ氏はマチャド氏について好意的な言葉を口にしましたが、四半世紀に及ぶ権威主義体制と経済運営の失敗を経験したベネズエラに、民主主義を早急に回復させるつもりは、どうやらなさそうです。
※マット・ポッティンジャー氏の連載記事全文(3500字)は、「文藝春秋」2月号及び、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています。全文では、イランやグリーンランドの問題についても語られています。
出典元
【文藝春秋 目次】芥川賞発表 受賞作二作全文掲載 鳥山まこと「時の家」 畠山丑雄「叫び」/忖度なき提言 高市首相の経済政策/緊急座談会 暴君トランプの新帝国主義
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