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「自分がどこで間違ったのか考えている」

 その挨拶からさっそく1週間後に行われた『Number』のインタビューは、たどたどしい言葉に途中何度か沈黙が訪れることもあったが、逮捕前後の清原氏のありのままの心境が語られた。再び松井が振り返る。

 

「インタビュー当日には、人前に出ることも、自分の負の部分を語ることもすべて心に固く決めて、ものすごいプレッシャーがあった中で、よくしゃべってくれたと思います。

 それで、インタビュー中に清原さんが『自分の中でどうしてこうなってしまったのか、どこで間違ったのかを考えている』と漏らしたんですね。それなら、自分の半生を振り返って、その答えを見つけるために、逮捕の時期だけでなく幼年期からこれまでを振り返る連載をやりませんか、と持ちかけたんです。

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 清原さんを支援している関係者も薬物依存症の治療で併発した鬱病治療の意味でも、定期的に外に出て人に会う機会を作ってあげたいと思っていたようで。本人も『自分が立ち直る大きなチャンスをいただいた』と言ってくれて、連載がスタートしたのです」

アイスコーヒーを2杯がぶ飲みして、ポツリポツリとしゃべりだす

 こうして17年7月から「Number」誌上で連載「告白」がスタート。2週間に1回、鈴木が聞き手となり、都内某所にある「白い壁の店」で、清原氏が記憶にある限り、昔から現在までを振り返っていった。この連載は1年続き、それが今年7月に単行本化されたのだ。

 

 と書くとスムーズに聞こえるが、取材は常に順調だったわけではないという。実際に1年にわたって取材を行った鈴木が語る。

「清原さんはインタビューの日の直前まで、何度も何度も『今日は延期してもらおうかな』と思ったそうです。ただ、実際に延期したのは23回の連載のうちたった1回だけ。いつもアイスコーヒーを2杯立て続けにがぶ飲みして、またコーヒーを飲みながらポツリポツリとしゃべりだす。僕は余計なことはせず彼の言葉の『記録者』であろうと思って、インタビューしていました。

 連載を始める前に、今の清原さんの状況があって、それでも過去を振り返ることに意味があるという話をしていたんです。だからその日の状態や、話している時の様子、表情などを、本文中に加えるようにしました」

 鈴木が言うように『清原和博 告白』では、各章の冒頭に過去を振り返ろうとする清原氏の現在の様子が描写される。例えば第8章の書き出しは次のように始まる。

<清原氏が白い壁の店にやってきた。黒いTシャツに黒いジャージ。服装はいつもと変わらないが、この日は、どこか血色が良くなっているように見えた。感情の起伏が見えにくい、いつもの沈鬱で重い瞼ではなかった。>