イーサン・ホークが、リチャード・リンクレイター監督の「ブルームーン」で初のオスカー主演男優賞候補入りを果たした。
長いキャリアで幅広い役に挑戦してきた彼が、これまで一度もこの部門にノミネートされてこなかったというのはやや驚き。だが、この映画の彼がこれまでにも増してすごいのはたしかだ。映画の冒頭から長いセリフをノンストップで語り続け、しかも観客を飽きさせないのは、長時間の舞台劇もこなしてきた彼だからこそできることである。
黄金コンビ誕生の影で、もうひとつのコンビが壊れた夜
舞台は1943年のニューヨーク、ミュージカル劇「オクラホマ!」がブロードウェイで初日を迎えた夜。作詞家ロレンツ・ハート(ホーク)は、上演後のパーティ会場であるレストランをひと足早く訪れ、バーテンダー(ボビー・カナヴェイル)に愚痴を垂れている。なぜなら、「オクラホマ!」は、これまでずっとハートが組んできたリチャード・ロジャース(アンドリュー・スコット)が、自分ではなくオスカー・ハマースタイン(サイモン・デラニー)という別の作詞家を選んで作った初の作品なのだ。
ロジャース&ハマースタインは、その後、数多くの名作ミュージカルを生み出していく。しかし、この黄金コンビが生まれる前にあった、もうひとつのコンビの片割れがどうなったのかについては、あまり知られないできた。そこに注目したのは、脚本家ロバート・カプロウだ。
「ソングライターになることを目指していた20代の頃、リンカーン・センターの図書館で、リチャード・ロジャースのインタビュー録音を聴いたんだ。3時間の会話の中で、話題がハートを捨ててハマースタインを選んだことになると、急に声のトーンが冷たくなるのを僕は感じた。ロジャースは、自分のキャリアのために、その厳しい決断を下さざるを得なかったんだよね。そこを掘り下げたいという願望を、僕はそのときから持ち続けてきたんだ」(カプロウ)
その脚本に興味を示したのは、カプロウの小説「僕と彼女とオーソン・ウェルズ」を映画化したことで親しくなっていたリンクレイター。
「『オクラホマ!』の初日の夜を見捨てられた男の視点から見つめるのは、とても興味深い。それに、ハートは、パートナーからだけでなく、時代からも置いてけぼりにされたんだよ。自分に『賞味期限』があるなんて、誰も思いたくないものだ。若い頃、僕はロジャース&ハマースタインのファンだった。だが、ハートについてはあまり知らなかった。だからこそ、ロバートが書いた脚本に、僕は強く心を惹かれたんだよ」(リンクレイター)

