「頭が禿げ上がった背の低い男」をイーサン・ホークが演じた経緯
「恋人までの距離(ディスタンス)」3部作、「6才のボクが、大人になるまで。」で組み、個人的な友人になったホークに脚本を渡したのは、あくまで気軽な気持ちから。「イーサンにどう役をオファーしたか、全然覚えていない」と言うリンクレイターに対し、ホークは「そう、僕のゴリ押しで決まったキャスティングだ」と返して、ふたりは笑い合った。
「脚本があまりにすばらしく、『声に出して読んでみよう。ラリー(ハート)の部分は僕が読む』というところから始まったんだよ。もし、リック(リンクレイター)が、『この役にはどの俳優が良いだろうね』とほかの誰かを考えたとしても、僕は受け入れただろう。僕らの友情はそんなことでは壊れないほど強いから。だけど、僕には、この役を演じる自分を完璧に想像できたんだ。僕はラリーにすっかり惚れ込んでしまった」(ホーク)
「あれがイーサン・ホークだとはしばらく気づかなかった」という声は、映画を見た人の間でよく聞かれる。たしかに、頭が禿げ上がっていて背の低いこの男性は、ホーク本人とまるで別人。髪型はともかく、身長をどう調整したのかは気になるが、リンクレイターもホークも、そこははっきり言いたがらない。
「これはシンプルな映画で、僕たちはリアリティ、自然であることを重視した。コンピュータを使ったトリックなどは、やらないと決めていたよ。僕たちが使ったのは、バスター・キートンやチャーリー・チャップリンの時代からある古いテクニック。彼らはどうやれば良いのか知っていた。昔の映画では、小柄な男を大きく、パワフルに見せるということを、しばしばやっている。僕たちはひとつのやり方でなく、ショットによって違ったアプローチをした。美術監督、衣装デザイナー、撮影監督らと密に話し合いつつね。これは多くの人たちの努力によって実現したものさ」(ホーク)
「ハマースタインを演じるサイモンは身長179センチ、イーサンは182センチ。だが、ふたりが一緒のシーンで、イーサンは彼を見上げる。現場はまるでダンスの振り付けを正しくやるような感じだったね」(リンクレイター)
ロジャースを演じるスコットも、若干ホークより身長が低い。ハートとロジャースが顔を合わせるシーンは、最も感情的な場面のひとつ。
「自分が成功への階段を登っているときに友人が落ちていくのは、ものすごく辛い。その友人には才能と情熱があると知っているなら、なおさらだ。その友人と大切な時間を過ごしてきたのに、今、彼を置いていかなければならないなんて。リチャードは、この夜、そんなところにいる。もっとも、彼は、このミュージカルが大ヒットして、自分がますます大物になっていくことを、このときはまだ知らないのだけれど。この瞬間の彼は、手応えと同時に恐れを感じている」(スコット)
そんなロジャースの気持ちに共感するのは、スコットだけではない。だからこそ、この小規模な映画は高い評価を得たのだ。
「友情が壊れた経験は、誰にでもあるはず。仕事上の関係が失われて、自分は不要な人間なんだと感じたことがある人も、きっと少なくないだろう。人生のどこかでそういったことは起きるもの。だから、忘れられた人物のほとんど知られていない話なのに、観客は寄り添いたいと感じるのではないかな」(カプロウ)
「悲しい話だけれども、ここに登場する誰にも悪意はない。僕はそこも好き。登場人物は、お互いに優しくあろうとする。にもかかわらず、心が傷つくのは避けられない。この話はまた、敗者も愛そうということも語ると思う。たしかに、ハートには欠点がたくさんある。でも、自滅的な行為は、世の中にとって良くないんだ。彼のような人を手助けしてあげるべきなんだよ。この映画には愛がたっぷりある。僕はこの映画を心から誇りに感じる。そんな映画に思い入れをしてくれた多くの人のこともね」(ホーク)

