平凡な主人公の極端な行動に秘められたメタファー
――主人公のマンスは製紙工場の中間管理職で、巷によくいそうな平凡な人物と言えますね。リストラされると再就職のために常人では考えられない極端な行動に出ます。その心情の変化をどのように捉えて演じたのでしょう?
イ・ビョンホン まずこの映画は、あまり考えずに観て直感的に楽しむこともできますし、一方で注意深く観ているとこれまた面白く感じられる、という特徴があるんです。さらに映画の中に深く入り込んでいくと、本当にたくさんのメタファーがある。一見すると流してしまいそうな描写に、隠されている意味が非常に多いことに気付かされます。確かにマンスはごく平凡な人物ですし、だからこそ観る人が同情し、感情移入をしやすい。ところが映画を観ていくうちに、どうして彼はそんな結論に達したのか、なんでそんな行動を取るんだろうか、と思うようになる。観る側はマンスへの感情移入から抜け出して、「そんなことはしないでほしい」という気持ちになるんです。
普通、失業して新しい職をどうしても得たいと思っても、あの決断に至る人はいないでしょう。でも実はこの映画は、世界中どの国の人でも共感できる大きな社会問題の1つ、雇用問題について語っている映画でもあるんです。その雇用問題によって、切迫した本当に大変な思いをしている人たちを代弁しているのが、このマンスなんです。彼の極端な行動も社会問題のメタファーであり、それを物語を通して伝えているとすれば、かなり理解できる部分があると僕自身は思いました。
すごく笑える原作だからこそ、笑わそうとしない
――原作小説の『斧』(ドナルド・E・ウェストレイク)が元々そうなのですが、コメディであり、スリラーでもありという、演じるにはとても難しいジャンルの映画ではないかと思いました。その上で、何かこだわった点や、感じたことを教えてください。
イ・ビョンホン ジャンルというのは、作家や監督が作品を作っていく作業の中で決まっていくものなので、俳優が演技をしながらジャンルを意識する必要はないんですね。つまり、僕らはキャラクターに入り込み、その人物の状況に応じてきちんと演技をすれば、映画のジャンルやカラーは自然と監督が意図した通りに立ち上がってきます。一方で、こういうジャンルだからこそ気をつけたこともあって、僕自身もこの本を読んだときに、すごく面白くて笑えると思ったんです。ですが、自分が実際に演じる時には、笑わせることを意識してはいけない、とも思いました。笑わせなければと意識した瞬間に、観客の皆さんには拒絶感を与えてしまい、逆効果になってしまう。だから本当に淡々と演技をするように心がけました。そのせいか、ここぞというポイントで自然と観客の笑いを誘うことができたと思いますね。

