――それを聞くと、あのマンスの表情が理解できます。ビョンホンさん自身もマンスに共感できる部分があったということでしょうか?

イ・ビョンホン 就職のために殺人を決心し、それを行動に移す。そこを除けば、残りの部分はほぼ共感することができました。平凡な人物というのは、要は普遍性のあるキャラクターだと言えます。また、殺人を犯す過程でのぎこちなさとか、ちょっと戸惑いを感じている部分にも共感できました。さらにマンスは25年間、ずっと製紙業界一筋。その職場から追い出されてしまって途方に暮れている状況に、僕はすごく共感できたんです。僕自身、成人になりかけの頃に演技の仕事を始めて以来、ずっと俳優だけを35年間やってきて、他の仕事をしたことがありません。もし何かの事情で演技をすることができなくなったら、やっぱりすごく途方に暮れてしまうでしょうね。そして家族への想いというのも、僕と似ている部分があります。愛する家族を守りたいと思うのは自然なことです。でも、そのやり方がまずいというか、古い価値観のままだったことがマンスの問題だったんでしょう。

『しあわせな選択』

カットされたラストシーン

――マンスの罪に気づいた妻ミリと息子は、家族のために秘密を守る選択をします。これについて、ビョンホンさんはどのように思われますか?

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イ・ビョンホン この家族は、最終的には家長であるマンスを受け入れず、排除しているように思えますね。実はこれもメタファーがあるんです。あんなにもマンスが聞きたがっていた娘のチェロ演奏を、実際には母親のミリと兄だけが聞くことができる。これはまもなく、マンスと家族が一緒に歩んでいけなくなるだろうという予感が込められているんです。マンス自身はそれに気付いていませんが。彼は、自分が求めていたものを全て手に入れたと思っている。新しい職場も得たし、家族の幸せも再び訪れたと思っているんですが、実は全てを失った状態でこの映画は終わっているんですね。これは非常に大きな悲劇なんです。実はマンスが新しい職場に出勤したあとに、もう1シーンあるはずでした。

『しあわせな選択』メイキング