なぜ彼らは「本当の身の上」を語ったのか
長い期間をかけて信頼関係を作り、徐々に心の距離を詰めていく。取材開始から映画の完成までは、6年という歳月を要した。
「複数の『夜逃げ屋』にコンタクトをとり、元顧客という形で蒸発した人たちを紹介してもらいました。さらに釜ヶ崎に長期滞在し、そこにいる人たちに話を聞いて、その中からも出演者の方を見つけ出したのです」(ハートマン監督)
37年前に蒸発し、ヤクザから逃れるため西成にたどり着いた男性。借金で首が回らなくなり、家族を残して姿を消した会社社長。ブラック企業の上司からの脅迫を避けるため「夜逃げ屋」の力を借り、田舎にあるラブホテルに身をひそめるカップル……。
スクリーンに映し出された彼らは穏やかな口調で、淡々と、自らの凄惨な過去と現在の生を赤裸々に告白していく。
平穏な「第二の人生」を根底から壊しかねない危険を冒してまで、なぜ彼らは取材に応じたのか。ハートマン監督に尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「私たちが海外の撮影チームだったということは大きいと思います。ですが、彼らにとって、これまで誰にも打ち明けられなかった“蒸発”という過去を言葉にすることは、ある種のセラピーというか、浄化作用のようなものがあったのではないでしょうか」
森監督もまた、彼らの心の奥底に「誰かに伝えたい」という欲求を感じたという。
「どこかで誰かに話したいという思いを、彼らは抱え続けていたのだと思います。伝えたいけれど、伝える術がない。話したいけれど、話してはいけない。そんな状況で今回のような機会があった。取材に協力してくれる人は予想以上に多かったです」
こうして、蒸発者たちの肉声を収めた本作は、世界40以上の国際映画祭で上映。ドイツ・タイ・イギリス・香港で配給され、とりわけ香港では大きな興行的成功を収めた。英語圏では「JOHATSU」というフレーズ自体が定着しつつあるという。
だが、当初この映画が日本で公開される予定はなかった。出演者たちのプライバシーを考慮して、制作陣は「日本国外のみでの公開」を想定していたのだ。
世界各国で反響が広がるにつれ、2人の監督の胸中にはある強い使命感が芽生え始める。
「蒸発という現象の当事者である日本においてこそ、この映画を観てもらう必要があるのではないか?」


