日本公開にこぎつけるための「唯一の解決策」
とはいえ、国内での上映には身元が割れるというリスクが伴う。そこで導入されたのが、AI技術による顔と声の加工だった。いわゆる「ディープフェイク」である。
「本作は心理描写が極めてすごく大切な映画なので、出演者の『表情』をいかに残すかが大きな課題でした。細かな感情を伝えるには、従来の『ぼかし』や『モザイク』では不十分だったんです。
そこで唯一の解決策として採用されたのが、AI技術でした。ディープフェイク技術を用いることで、出演者の顔や声を別人へと置き換える。さらに、地名や人名などの固有名詞についても改変を行い、日本公開へとこぎつけることができました」(森監督)
蒸発者たちの生き様は何を伝えるのか
映画に登場するのは、姿を消した蒸発者だけではない。26歳からこの仕事に身を投じた「夜逃げ屋」の社長。ある日突然、最愛の息子が蒸発したことで深い悲しみに暮れる母親。そして、彼女の依頼を受けて懸命に息子の行方を追う探偵。
蒸発という言葉には、どこかすべてが有耶無耶になるような響きがある。しかし、その裏側には、失踪を支える伴走者がいる。ときには、残された家族の痛切な叫びがある。
「撮影現場では何が起こるかわかりません。あまり深く考えずに、とにかく撮り続けることに集中していました。ですから、本当の意味で映画が生まれたのは、編集の段階だったと思っています。
私とアンドレアス、そしてドイツ人のエディターの3人で編集室に籠もり、試行錯誤の末にこの形へと仕上げました。最終的に蒸発することがいいことなのか悪いことなのかを決めてしまう映画にはしたくなかった。どちらかというと疑問を投げかけるような映画にしたかったんです」(森監督)
世界各国での成功を経て、いよいよ日本解禁を迎える映画『蒸発』。まさに“当事者”である日本において、本作はどのように受け止められるのか。
「今いる場所から逃げ出したい、自分という存在を消してしまいたい。そう願う瞬間は、きっと誰の心にもあるはずです。過去を完全に断ち切ることは容易ではありませんが、自分をやり直すチャンスがある。蒸発という言葉には、その両方の面があると思います」(森監督)
『蒸発』
3月14日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
監督:アンドレアス・ハートマン&森あらた
撮影:アンドレアス・ハートマン 編集:カイ・アイアーマン(BFS) 音楽:ヤナ・イルマート & 竹原美歌 音響:ニルス・フォーゲル リヌス・ニックル
制作:Ossa Film 共同制作:Mori Film バイエルン放送(BR)プロデューサー:アンドレアス・ハートマン 共同プロデューサー:森あらた
助成:ドイツ連邦政府文化メディア庁(BKM) Film- und Medienstiftung NRW
配給:アギィ
ドイツ・日本/2024年/カラー/DCP/86分 ©2024 OSSA FILM, BR, MORI FILM


