特別な事情を抱えた人々の引越しを手伝う業者「夜逃げ屋」。そんな夜逃げ屋を題材にしたコミックエッセイ『夜逃げ屋日記』シリーズ(KADOKAWA)が人気を呼んでいる。作者の宮野シンイチさんは、夜逃げ専門引っ越し業者「夜逃げ屋TSC」で働きながら、夜逃げ屋の実態をマンガで発信している。

 夜逃げ屋では、依頼者に対してどんなサポートを行っているのか。依頼者の家族やパートナーなどから、恨まれることはないのだろうか。宮野さんに話を聞いた。(全2回の2回目/1回目から続く)

現場に緊迫した空気が漂う夜逃げの現場(写真=宮野さん提供)

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警察や役所と連携し、依頼者をサポート

 宮野さんが働く「夜逃げ屋TSC」の依頼者のほとんどが、身近な人の虐待やDVに悩んでいる、いわゆる“被害者”だ。そのため、行政・司法との連携まで行っているのが大きな特徴のひとつだ。

「加害者からすると、ある日突然、被害者が家からいなくなるわけですよ。警察に捜索願を出したり、役所で住民票を取り寄せたりして、居場所を突き止めようとしてきます。やっとの思いで夜逃げをした後も、追いかけてくる恐怖と戦わなければなりません。そのサポートとして、僕たち夜逃げ屋のスタッフが事前に警察や役所に事情をお伝えし、連携をとっておくんです」

 また、夜逃げ前後に、資格を持ったカウンセラーによるカウンセリングも行っている。

夜逃げする前に電話やメールで相談してくる方も

「専門スタッフだけでなく、社長もカウンセリングの資格を持っています。特に社長は、カウンセラーとしてのスキルや経験が豊富なのはもちろん、パートナーのDVから夜逃げした“経験者”です。だから、依頼者の気持ちに寄り添えるんだと思います。実際に、依頼者目線でもとても話しやすいようで、社長を指名して相談してくる方も多いんですよ。夜逃げする前に、電話やメールで相談してくる方もいます。

 依頼者の方々は、突然夜逃げを思い立って連絡してくるわけじゃない。長い間悩むなかで、周囲の人に相談をした経験がある方も多いんです。でも、『そんなに辛いなら逃げればいいのに、なんで逃げないの?』と理解されず、人に相談するのが怖くなってしまった、という方も少なくありません」

 依頼者は逃げる気力もないほどに、心身ともに疲れ切っている場合が多いという。依頼者の負担を限りなく少なくするためにも、加害者に気づかれないように夜逃げの準備を進めなければいけない。ただ、夜逃げ後には当然、加害者も同居人の“失踪”に気づく。そして戸惑い、憤慨する。その怒りの矛先が、夜逃げ屋に向くことはないのか。