夜逃げ屋の利用者が宮野さんのマンガに救われている理由
「僕のマンガをきっかけに、『自分も変わりたい』と一歩踏み出してくれる読者がいるから、ですかね。この間も、『ずっと親に搾取され続けてきたけど、夜逃げ屋のマンガを読んだらなんだか勇気をもらって、初めて親を拒絶できた』とコメントをいただいて。嬉しかったですね。
また、ありがたいことに読者だけでなく、マンガに登場している依頼者の方々も『マンガになることで救われている』と言ってくれるんです。夜逃げの依頼者たちは、何らかの事情で家族や知り合い、警察や行政に頼れなかった人が多い。裏を返せば、依頼者を精神的にも肉体的にも追い詰めてきた加害者たちは、何の罰も受けていないんです。
もちろん、後から被害を訴えることもできます。でも、依頼者は二度と加害者に会いたくないから、それも難しい。そんな依頼者にとっては、『自分のされてきたことがマンガになること』が告発の代わりになっていると感じているそうです。
たしかに、夜逃げ屋の仕事は危険なことも多い。でも、夜逃げ屋かつマンガ家の僕だから、できることがあると信じています。僕の発信に何かしらの意味を感じてくれる方がいる限りは、夜逃げ屋もマンガ家も続けていきたいですね」
死を選ぶくらいだったら、生きるために逃げてほしい
2023年6月に第1巻、そして2024年2月に第2巻が発売された『夜逃げ屋日記』。昨年文春オンラインで行ったインタビューでは、「『夜逃げ屋日記』を読んで連絡しました」という依頼が増えていると話していたが、その後の状況はどうなのだろうか。
「『夜逃げ屋』の存在を知る人は、少しずつ増えていると思います。それでも、知らない人のほうがまだ圧倒的に多いですね。
ニュースを見ていると、DVや虐待で命を落とす人の話題が連日のように流れてきます。僕は、死を選ぶくらいだったら、生きるために逃げてほしいと思う。そのために僕たちのような夜逃げ屋がいるのですが、その認知度はまだまだです。
夜逃げ屋の存在を知ってもらうために、僕は引き続きマンガを描き続けるし、こうやってメディアの取材も積極的に受けていきたいですね」