特別な事情を抱えた人々の引越しを手伝う業者「夜逃げ屋」。そんな夜逃げ屋を題材にしたコミックエッセイ『夜逃げ屋日記』シリーズ(KADOKAWA)が人気を呼んでいる。作者の宮野シンイチさんは、夜逃げ専門引っ越し業者「夜逃げ屋TSC」で働きながら、夜逃げ屋の実態をマンガで発信している。

 いったいどんな人たちが、夜逃げ屋を利用しているのか。依頼者はどんな葛藤を抱えながら、夜逃げを決行しているのか。宮野さんに話を聞いた。(全2回の1回目/2回目に続く)

宮野さんが作業した夜逃げの現場(写真=宮野さん提供)

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近年はDVや虐待を受けている人が夜逃げ屋を利用

 もともと、マンガ家志望だった宮野さん。そんな彼が夜逃げ屋の一員となったのは、たまたま観ていたテレビ番組に、「夜逃げ屋TSC」の社長が出演していたのがきっかけだった。マンガ家としての好奇心から社長に取材を申し込んだところ、「一度体験したほうが早いから」と夜逃げの現場に同行することに。それから8年以上、マンガ家と夜逃げ屋の二足のわらじを履いている。

 宮野さんによると、「夜逃げ屋」の仕事自体は、引越し業者とあまり変わらないという。大きく異なる点は、“依頼者が置かれている状況”だ。

「ドラマ『夜逃げ屋本舗』の影響か、夜逃げ屋と聞くと『借金取りから逃げるために、人知れず引っ越しをする』ことをイメージする人が多いんですよね。でも近年は、借金苦で夜逃げする人はごく少数。依頼者の年齢や職業、性別は様々ですが、そのほとんどがDVや虐待などから逃れるために、夜逃げ屋を利用しています。

 家族やパートナーからDVや虐待を受けている方は、自由に使えるお金を制限されていることも少なくありません。だから、依頼者の荷物量や移動距離をヒアリングして、それに合わせた予算で手配する場合が多いです。例えば先日は、費用を抑えるために、スタッフの人数やトラックの台数も少なくして、丸1日かけて荷物を運びました」

トラックに荷物を入れる夜逃げ屋のスタッフ(写真=宮野さん提供)

社長に内緒で依頼者にお金を貸してしまい…

 ほとんどの依頼者が、“いつか”のためにこっそり貯めたお金や、親戚・友人から借りたお金で夜逃げの相談をしてくる。しかし中には、まったくお金がなく、途方に暮れた状況で相談にくる人もいるという。