「かなり昔の話なのですが、ある母子の夜逃げを担当したとき、当日になって『お金を用意できなかった』と言われてしまって。その際、社長がその親子に何かを感じ取ったのか、『お金がないなら、夜逃げは手伝えない』ときっぱり断ったんです。お金のこと以外にも、その母親の発言が二転三転していたので、少し怪しい雰囲気があったんですよ。
でも僕は、どうしてもその2人を見過ごせなくて……。自分の口座からお金を下ろして、『後で返してくれればいいから』と言って、2人に貸してしまったんです。もちろん、社長には内緒で。
そのお金で夜逃げは無事に行えました。でも、僕の貸したお金はいつまで経っても返ってこなかった。嫌な予感がして彼女たちの夜逃げ先に伺ったら、『気持ち悪い、死ね』と追い返されてしまって……。社長の勘は正しかったんです。僕の考えが甘かったばかりに、社長にも会社にも迷惑をかけてしまったと、ものすごく後悔しました」
結局、宮野さんがその親子に貸したお金はその後も返ってこなかった。それから数年後に親子が住んでいたアパートを再び訪れたら、空室になっていたそうだ。ただ引っ越しただけなのか、トラブルに巻き込まれたのか、今となっては知るすべはない。
宗教2世からの問い合わせが増えているワケ
また、最近の傾向として、「宗教2世」からの問い合わせが増えているという。
「以前から問い合わせはあったんですよ。でも、ここ数年はいろいろな事件の影響で注目度があがったからか、特に増えているかもしれません」
宗教2世の問題は、根深い。例えば、厳しい戒律や教理によって親から虐待を受けたとしても、生まれたときからそれが“当たり前”だから、「教えを守れない自分が悪い」と思ってしまう。場合によっては、家族だけでなく、友人も含めた自分の身近な人がすべて宗教団体の関係者、ということもある。もし違和感を抱えても、周りに相談できずに1人で抱え込んでしまい、夜逃げ屋に連絡する頃にはもう限界寸前ーーという人も少なくないそうだ。
日々寄せられる宗教2世からの相談の中でも、宮野さんが特に印象に残っている事例を教えてくれた。
宗教の教えを破ると厳しい罰が…宗教2世のリアル
「書籍にも掲載している井上ヨシコさん(仮名、当時29歳)は、お母さんがとある宗教の信者でした。それがきっかけかは分からないけれど、ヨシコさんが幼い頃に両親が離婚し、ずっとお母さんと2人暮らしをしていたんです。
宗教の教えから、運動会や誕生会、クリスマス会といった様々な行事に参加できない。国歌や校歌も歌えない。学校行事はもちろん、友達と遊ぶこともままなりませんでした。もし教えを破ると、厳しい罰が待っている。でも、ヨシコさんにとってはそれが“当たり前”の生活だった。宗教の教えも、お母さんの言うことも絶対だったんです」