新たな被害者を増やし続けていた

 石丸が言及する「性犯罪の前科」というのは、石丸の被害のことではない。

 田中は2016年に神奈川県警に逮捕され、翌年、未成年者誘拐罪および児童福祉法違反で懲役3年、執行猶予4年の判決を言い渡されている。事件当時、田中は熱海のリゾートマンションを別荘として所有していた。そこに共犯者の元小学校講師の男と共謀のうえ、被害男児A(当時11歳)を食事などに誘って誘拐したことと、被害男児B(当時13歳)を連れ込んで性交類似行為をさせた事実が認定されたものだ。

 石丸はこの事件を報じる記事を目にしたことで、刑事事件の時効をとうに迎えていた自身の被害を民事で追及しようと決意したのだった。

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秋山千佳『沈黙を破る 「男子の性被害」の告発者たち』(文藝春秋)

 石丸は当初「事実を認めて謝ってくれさえすればそれでいい」として調停を起こしたが、田中は否定するだけでなく、石丸の「妄想」「不労所得を得ようとするいいがかり」などとして激しく反論。調停は不成立に終わり、損害賠償請求訴訟に至った。

 その過程で、石丸の勇気ある実名告発を目にした小学校時代の同級生たちが証人となり、十中八九負けると言われていた裁判の流れを変えたことは、拙著『沈黙を破る 「男子の性被害」の告発者たち』(文藝春秋)に詳しい。

 彼らの証言は、田中の数々の嘘を暴き、1クラス中、石丸を含めて少なくとも4人の男児が性被害に遭ったと述べていることまで浮き彫りにした。

 田中は2024年9月の判決確定後、東京・JR国立駅近くの分譲マンション最上階にあった自宅を裁判所に差し押さえられ、強制競売にかけられたことで、八王子市に転居。駅から距離のある賃貸住宅で一人暮らしをしていた。

 しかし反省の日々とはほど遠く、2025年末に逮捕されるまで、新たな被害者を増やし続けていたのだった。

※この続きでは、田中容疑者を逮捕した警視庁少年育成課の佐藤直樹課長がインタビューに応じています。約5200字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(連載「ルポ男児の性被害」第9回・前編)。

これまでの連載と後日談は、『沈黙を破る 『男子の性被害』の告発者たち』(文藝春秋)として書籍化されています。

沈黙を破る 「男子の性被害」の告発者たち

秋山 千佳

文藝春秋

2025年7月11日 発売

■連載「ルポ男児の性被害」(秋山千佳)
「成長はどうなっているかな」小学校担任教師による継続的わいせつ行為《被害男性が実名告発》
《異例の逆転勝訴》性被害から20年、クラスメートの新証言がわいせつ男性教諭の数々の“嘘”を暴いた
《賠償金約4000万円》法廷でも被害者の人格を攻撃 わいせつ男性教諭に画期的判決が下った“3つの理由

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