「ある種のカーニヴァル感覚」

 芝山 あの、ぼんくらぶりやへっぴり腰が生きていましたね。ある種のカーニヴァル感覚というか、抑圧や独裁に対して、はっきりノーと言っているわけですが、それがみじんもお説教臭くない。むしろ、血湧き肉躍るイメージが、つぎつぎと画面に叩きつけられていく。映像も演技も音楽も、すべて有機的に化合して、観客を異次元にかっさらっていく。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』の主演をつとめたレオナルド・ディカプリオ ©EPA=時事

 森 相当シリアスな政治闘争のメッセージが組み込まれているんですよね。「政治の季節」の60年代的な要素は、インスピレーションの源となったトマス・ピンチョンの『ヴァインランド』から汲み上げている。それを今のトランプ政権下のアメリカの問題に見事にスライドさせ、ブラックライブズマターなどを経てもあまり変わらなかったアメリカ社会の実相を真摯に描き、それを撃っているのですから、さすがの一言です。

 PTAがピンチョンの小説を映画化するのは『インヒアレント・ヴァイス』(原作の邦題は『LAヴァイス』)に続き二度目ですが、かなり原作に忠実なアプローチを見せた前回に対して、今回は自由で開かれた脚色が光っていました。

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 芝山 シリアスな側面と馬鹿馬鹿しさの融合したわかりやすい例が、変態軍人ロックジョーが、女性闘士テヤナ・テイラーに命じられて、半ば強制的に勃起させられる場面。

 低い位置からのあおりでテント状態の股間を撮るわけですが、なんとも馬鹿げたこの場面が、後々の因縁話につながっていくあたりが、豪快な展開でしたね。

※約9700字の全文では、「2025年のベスト映画10本」を選んでいます。全文は月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(芝山幹郎×森直人「年忘れ映画ベスト10〈頭抜けた大傑作にやられた〉」)。「文藝春秋PLUS」では、この他にも多数の関連記事をご覧いただけます。

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文藝春秋

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年忘れ映画ベスト10〈頭抜けた大傑作にやられた〉

出典元

文藝春秋

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