2019年10月26日深夜、大阪府堺市の中学2年生だったトモコさん(仮名、享年13)がマンションから転落し、救急搬送された。一命はとりとめたものの1週間後に病院で死亡した。
母親はトモコさんのスマートフォンの中を見るかどうか悩んでいた。トモコさんが受けていたいじめにつながる情報がある可能性は高いが、その情報に直面する恐怖もあった。トモコさんの死から約5年半後、ついにロックの解除に成功した母親が目撃したのは、あまりに苛烈ないじめの実態だった――。
トモコさんが遺したスマートフォンには、パスワードがかかっていた。ただ業者に頼るなどの方法も取らなかったのは、中を見ることでトモコさんの死と正面から向き合うことを躊躇していたからだった。
「スマホを見るのが怖くて、見たくないと思っていたんです。本当ならお線香をあげることさえトモコの死を認めるようで嫌なのに、いじめの痕跡が残っているであろうスマホはそれ以上に怖いものでした。ただ市の調査委員会に『いじめと自殺の因果関係は認められない』と言われた時にそれが許せなくて、トモコがいじめに苦しんでいた事実を証明するにはスマホの中身を見るしかないと覚悟を決めました」
「『1、1、1、1』から順番に、すべての数字を試そうと思いました」
トモコさんが亡くなった後、学校主体の調査、堺市の教育委員会による調査が行われたが、20年10月の報告書ではいじめと不登校の因果関係は認めたものの、自殺との因果関係は認定しなかった。
母親はそれ以降も再調査を求めてきたが、教育委員会が動くことはなかった。
トモコさんの死からすでに5年以上が経った25年2月、母親はずっと触らずにいたトモコさんのスマホの中身を見る決断をした。ロックを解除するためにしたのは、4桁のパスワードを総当たりで全て手で打ち込んでいくことだった。
「『1、1、1、1』から順番に、すべての数字を試そうと思いました。データが飛んでしまう可能性も頭をよぎりましたが、当時は他の方法が思い浮かばなかったんです。仕事の合間や休日を使い、どこまで打ち込んだかメモしながら数字をひとつひとつ打ち込んでいきました。気の遠くなるような作業でした」
作業を始めてから約1週間後、ついにスマホのロックが解除された。その4桁の数字は誕生日でもなんでもない、母親にとってまったく由来がわからない数字だった。
ロックが解けると、見慣れたアプリが並ぶトップ画面が表示された。おそるおそるLINEのアイコンをタップすると、母親の目に飛び込んできたのは暴力的な言葉の数々だった。


