「ダイナマイトがあった! 早く逃げろ!」
その一言で、4人の銀行員は車を捨てた。次の瞬間、“偽警官”は3億円を積んだ車ごと姿を消す。なぜ誰も疑わなかったのか。なぜ犯人は捕まらなかったのか。昭和を震撼させた「三億円事件」、その大胆すぎる手口の全貌を、宝島社『日本の未解決事件100』より抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む)
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犯罪史上に残る大事件「三億円事件」
昭和の未解決事件には、独特のスケール感と人間の「情念」が感じられる。アナログな犯罪とアナログな捜査のせめぎ合いは、時代を鏡のように映し出すスクリーンでもある。
まだ給与やボーナスが現金で支給されていた1968年(昭和43年)の冬の日、日本の犯罪史上に残る大事件が起きた。
12月10日午前9時15分。東京の冬としては珍しい、強い雨が降りしきる朝、黒のセドリックが日本信託銀行国分寺支店を静かに出発した。
行き先は東芝の府中工場。この日、セドリックには工場の全従業員4525人分のボーナス2億9430万7500円の現金が袋詰めにされて積まれていたのである。セドリックが府中刑務所外塀沿いの道に差しかかったとき、不意に後方から白バイクが近づき、左手を挙げてセドリックを停車させた。
「いま巣鴨署から連絡があり、巣鴨支店長の家が爆破されました。このクルマにも爆弾が仕掛けられているかもしれない……すぐにシートの下を調べてください!」
4人の銀行員が慌てて外に出ると、車体の下に潜っていた白バイ警官が叫んだ。
「ダイナマイトがあった! 早く逃げろ!」
車体の下から白煙が上がった。4人の行員は反射的にクルマから離れた。
すると、警官は自らセドリックに乗り込むとエンジンをかけ、猛スピードで前方に走り去った。
「なんて勇敢な警官なんだ……」
だが、セドリックの警官が戻ってくることはなかった。こうして3億円は見事に強奪されたのである。

