イラン情勢が緊迫し、「有事の金」として金価格の急騰が期待されていた。しかし実際には、一時5400ドルを突破した後に下落し、5000ドルを割るまで値を下げた日もあった。なぜ有事の金は期待ほど上がらなかったのか。ゴールド運用歴50年超、貴金属トレーダーの豊島逸夫氏は「理論的な部分」と「構造的な部分」の2つの理由を挙げた。(全2回の2回目/はじめから読む

※この番組は2026年3月5日に収録されました。

【イラン情勢・金価格はどうなる】金トレード歴50年の第一人者が解説|金マーケットは「二極化している」|短期・長期ダブル予想【豊島逸夫】

(初出:「文藝春秋PLUS」2026年3月10日配信)

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「好調ならば、利下げする必要はない」

 理論的な要因として豊島氏が挙げたのは、米国の経済指標が軒並み好調であったことだ。前月の雇用統計、ADPの民間雇用統計、景況感指数のいずれも良好な数字が並んだ。通常なら好材料だが、市場は素直に受け取らなかった。

「好調であるならば、FRBも利下げする必要はないということになる。ここがポイントだ」と豊島氏は語る。

 金は金利がつかず配当もない資産であるため、利下げは上げ要因、利上げは天敵となる。イラン情勢以前、市場は年内2回の利下げを織り込んで金を買っていた。しかし良好な経済指標が相次いだことで利下げ観測が後退し、収録日時点では「年内0回」という見方すら浮上していたという。この利下げ期待の剝落が、短期投機家の売りを誘発した。

「噂で買って、ニュースで売る」

 豊島氏は2003年のイラク戦争を引き合いに出し、「有事の金」の落とし穴を説明した。当時、ニューヨーク市場にいた「中東グループ」と呼ばれるトレーダー集団が、開戦の半年前から先物の金ポジションを密かに積み上げていた。そして戦争が勃発し金価格が上がった瞬間、「待ってましたとばかり」に売りを出したのだという。

豊島逸夫氏

「噂で買って、ニュースで売る。Buy on rumors, sell on news。スイス銀行のトレーディングルームで最初に叩き込まれた鉄則だ」と豊島氏は振り返る。一方で、有事のニュースを見てから金に飛びついてしまった個人投資家は高値掴みとなり、「何ヶ月か眠れぬ夜を過ごすはめになった」。今回のイラン情勢でも、同様の利益確定売りが出ていたと豊島氏は明かした。