今上天皇が2019年4月の退位をひかえたいま、憲法第1条をもう一度読み直すと……。「天皇は日本国の象徴」「天皇は人権の飛び地」って一体どういうこと?(全2回の2回目/#1より続く)

退位したいという「おことば」をめぐって

高橋 本書では、〈憲法における天皇〉を1つ大きなテーマにしてきました。2016年の8月8日に今上天皇が「おことば」を発されて、退位の話をされました。天皇としての象徴的行為の義務を果たすことができなくなったから退位したい、というメッセージは、いわば天皇の内心を吐露した、1946年1月の人間宣言をちょっと思わせるものでした。「おことば」をめぐっては、現憲法の天皇の役割を逸脱しているんじゃないか、越権行為なのではないかという批判と、一方で、平和主義を体現していく象徴としての役割を果たし、憲法を擁護しようとしている素晴らしい姿勢だという評価の、真っ二つに割れました。この問題をどうとらえたらいいのか、長谷部さんのご意見を伺いたいと思います。

長谷部 難しい問題ですが、私はどちらの立場でもないですね。美濃部達吉の天皇機関説が本書でも詳しく取り上げられていますが、国家は株式会社と同じ一種の法人で、結局のところは頭の中にしかない約束事です。憲法1条で天皇は日本国の象徴だと書いてありますが、要するに、日本国という抽象的なものを、天皇という具体的な人が表している。ただ、本当に象徴しているかどうかは、人々が天皇を日本の象徴だと実際に考えているかどうかという事実上の問題に帰着します。

©平松市聖/文藝春秋

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 たとえば、ハトは平和の象徴と言われますけど、それは多くの人々がハトのことを見て「ああ、平和だな」と思うから平和の象徴なのであって、皆さんが「なんか汚らしい鳥がいるわ」としか思わなければ、ハトは平和の象徴たり得ない(笑)。