生前退位 天皇は解釈して行動している
長谷部 ですから、天皇もまた、多くの国民が日本の象徴だと思ってこそ象徴なわけです。「思えないよ」という人に無理やり思わせることはできない。そうすると、天皇としては象徴だと思ってもらえるような行動をとらざるを得ない。日本全国津々浦々いろんなところに出かけて、市井の人々と触れ合ったり、災害の被災地にお見舞いにいったり、先の大戦の激戦地に出かけていって慰霊をしないと、象徴だと思い続けてもらえないという、社会学的な事実の問題があります。象徴としての役割は具体的な行動で示さなければいけないので、そうした行動がきちんとできる次の世代の人に代替わりせざるを得ないというのは、筋の通った話だと私は思っています。
高橋 憲法に、天皇が象徴的行為として何をするかは具体的に書いてないため、今上天皇は解釈して行動しているわけです。「これこそが憲法に書いてある天皇の義務である」という解釈の押し付けではという批判もありました。
長谷部 そういう批判があることは私も存じ上げています。ただ、それは天皇が自分の判断で押し付けているわけではなく、宮内庁を通じて政府とも十分調整した上で声明を出しているわけでしょう。これぐらいのことはやり続けないと、多くの国民に天皇を日本の象徴だと思い続けてもらえないんじゃないかという、ある種の危機感からそういう行動に出ていると思いますし、それを非難はできないと思うんです。象徴天皇制という憲法の予定する制度を持続させるための提案ですから。さらに申しますと、退位の提案なんてご本人が言いださなかったら、いったい誰が言いだすのか(笑)「あなたもそろそろ歳だからやめたらどうですか?」と他の人間が言ったら、かなり不穏当な話でしょう。
高橋 確かにそうですね。聞いていると、長谷部さん、憲法9条のとらえ方と共通しますね。現実に運用できているからこれでいいんだと。そういう意味で反対でも賛成でもない。「9条を改正しろ」でも「これは絶対守るべきだ」でもなくて、このままで機能しているから、何も問題はないと。
長谷部 そう思います。天皇が、「こういう国事行為をやりたい」、「衆議院を解散したいんです」とかいい出したら、とてもまずい話ですが(笑)、「体がついていかないので、象徴としての地位を次の世代に」というのは、これは仕方がないのではないか。