映画監督・三宅唱氏の最新作『旅と日々』は、3月27日に死去が報じられた漫画家・つげ義春氏の2短編を映像化した作品だ。三宅氏にとって、つげ義春作品とは「大学生の時に読んで以来惹かれていた漫画」だったという。三宅氏のインタビューの一部を紹介します。

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 映画作りは楽しくてかっこいいもの、という思いが自分のベースにあると思います。よく「優しい映画を作るんですね」と言われます。2024年の『夜明けのすべて』は特にそうでした。PMS(月経前症候群)に悩む女性とパニック障害を持つ男性の交流を見つめた映画なので、そのように思われるのかもしれない。でも、「優しい映画」を作ろうと思ったことはありません。理不尽な世界でどう楽しく生きるか悩んで、トライする人に惹かれるんです。

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三宅唱氏の最新作『旅と日々』は、漫画家・つげ義春氏の2短編が原作 ©文藝春秋

 映画作りは人生を懸けるに値します。単にいい映画を作るだけでなく、関わる人たちと一緒に真剣に楽しめる過程も、僕にとっては大事です。撮影現場で働く四、五十人が「映画の仕事をしてよかった」と感じられる現場を作る責任もあります。仕上がりにも関わってくるし、みんな人生は一回しかないんだから。

 これは観客にとってもそうです。わざわざ映画館に行って、出た後に、どんな変化が起きるか。もちろん、たかが映画だから、世界で起きている喫緊の問題を直接解決できるわけではない。でも、毎日真剣に生きている人が、映画館で普段なかなか目にしないものに驚いたり、戸惑ったり、いつもと違う角度から考えたりしながら、思いこみから解放されて、少しでも自由な気分になれたら、面白い体験になるはず。

 最新作の『旅と日々』はそういう映画になってほしいと思っていました。おかげさまで、ロカルノ国際映画祭でグランプリの金豹賞を獲得しました。海外の映画祭での大きい賞は初めてのことで、今春には自分たちの作品として初めてアメリカで公開されます。各部署のスタッフと継続してきた仕事が結実した手応えもありましたし、スペシャルなチームだと心から思います。