“伝説のヤクザ”として知られ、のちに映画俳優としても活躍した安藤昇。『日本暗黒史 血の抗争』の撮影を終えた頃、男女の関係にあった女優・瑳峨三智子は吉祥寺へと移り住み、病に蝕まれていた。久々に訪ねた安藤は、その変わり果てた姿に衝撃を受ける――。
孤独と薬に苦しむ彼女を前に、安藤はある決断を下す。なぜ彼はそこまで献身したのか。大下英治氏の著書『安藤組 修羅たちの戦い』(宝島SUGOI文庫)より、その関係の実像をひもとく。(全3回の2回目/3回目につづく)
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痛々しくやせ細り、心臓が弱って……安藤が見た瑳峨の窮状
『日本暗黒史 血の抗争』の撮影が終わったころ、瑳峨は、それまで住んでいた渋谷松濤から東京都武蔵野市の吉祥寺に住まいを移していた。そのころ、瑳峨の身体は、ますます病魔に犯されていた。それもあり、仕事に穴を空けることが増えた。
安藤は、『日本暗黒史 血の抗争』の撮影が終わり、吉祥寺の瑳峨の家をたずねた。安藤は、やつれ切った瑳峨の姿を見て、驚いた。数カ月前より、また一段と痛々しくやせ細り、心臓が弱っていた。はっきり言って、臨終に近い人に思えた。かといって、見舞い客などだれ1人として来ない。安藤は、瑳峨の窮状を見て、あとには引けないと思った。
〈おれが、死に水をとってやろう〉
安藤は嵯峨に訴えた。
「このままでは死んじゃうぞ! 体がクスリでダメになるのがわからないのか!」
ジッとこらえていた安藤の気持ちが、一気に高まった。
嵯峨は、眉をくもらせると、ツンと横を向いた。
そのとき、安藤の右手が突然彼女の頬を打った。
睡眠薬を乱用していた嵯峨
「クスリを飲んで誤魔化している人間なんて、おれは大嫌いだ。あまったれちゃいけない。のぼせるんじゃないよ。精神を入れ替えたら、どうなんだい。心も体もみんなクスリでやられてるのがわかんないのか。自分の体なんだぞ」
安藤は、嵯峨の胸元を力いっぱい摑んだ。
「それでも、まだクスリが忘れられない。まだ飲みたいんだったら…」さすがの安藤もここで言葉を切った。が、嵯峨はその言葉を聞こうともしない。「よし、それなら思いきり飲んでみろ。たっぷり飲んで死んじゃうんだな…。いいとも、俺が見届けてやる。葬式は俺が出してやる」
嵯峨も黙ってはいなかった。
「何をいうの! 私にはクスリが必要なのよ…」
安藤の両腕を払いのけながら、続けた。
「ひどいじゃない。女を叩くなんて、男の風上にも置けやしない。早く帰ってちょうだい!」
安藤は、その日から嵯峨が睡眠薬を完全に断ち切れるようにと、懸命に支えて行くことになる。

