〈あらすじ〉

 舞台はドイツ北部、アルトマルク地方の大農場。1910年代、幼いアルマ(ハンナ・ヘクト)は、ある時、屋敷の中で自分とよく似た少女が写った写真を見つける。姉たちは、それは7歳で亡くなった“アルマ”だという。その気配を感じながら、彼女は周囲で起きるさまざまなことを見つめ続ける。昔ながらの葬儀の作法、兄や姉に起きたこと、使用人たちの不運な境遇――。

 1940年代、同じ屋敷に住むエリカ(レア・ドリンダ)は叔父への抑えきれない欲望を持て余し、1980年代に生きるアンゲリカ(レーナ・ウルツェンドフスキー)は自身の身体に向けられる視線に怯える。そして現代、ベルリンから家族と移り住んできたレンカ(レーニ・ガイゼラー)は、川で出会った少女カヤと充実した夏の日を過ごしながらも、どうしようもない孤独感に苛まれていく。

 時代を超えて響き合う少女たちの不安を、迫り来る不穏な音とともに描く。

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〈見どころ〉

 少女たちの心の機微を克明に表す、絵画のように印象的な構図。

少女たちの百年にわたる映像叙事詩

ドイツの農場を舞台に、4つの異なる時代に生きる4人の少女たちが見つめたもの──大きな不安とささやかな怪異を描く。長編2作目にして、初参加の第78回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。今年のアカデミー賞ドイツ代表にも選出された注目作。

©Fabian Gamper - Studio Zentral 配給:NOROSHI ギャガ
  • 芝山幹郎(翻訳家)

    ★★★★☆苦痛とエロスを泥絵具のように混ぜ合わせ、不穏な濁りを浮き上がらせる手腕が眼を惹く。体質の隔世遺伝や、家父長制とセクシズムが結びついたときの危うさも伝わる。ただ、観客の想像力にやや依存しすぎではないだろうか。

  • 斎藤綾子(作家)

    ★☆☆☆☆謎がありそうな農場の薄暗さや少女たちの暮らしの変容、それぞれの時代を興味深く映し出してはいる。だが目を凝らし耳をそばだてわかったのは監督の傲慢さ。上から目線の女性に対する憐憫、死に性別を持ち込む演出は不快。

  • 森直人(映画評論家)

    ★★★★☆強靭な鋭利さ。同じ場所で幻視的に重なり合う少女たちの百年の孤独。蠅が不快な羽音を立て、歴史が呻き声を上げているようなサウンドデザインが不穏に轟く。劇映画の臨界点近くまでハードコアな前衛性を推し進めた怪作。

  • 洞口依子(女優)

    ★★★☆☆異なる時代に同じ場所で生きる女たちの運命の断片をその同じ部屋の壁の穴から覗き見する感覚。幻想的な幽玄さがホラーな要素を醸し出すも、呪われた時間があまりにも壮大でフォーカスが時折甘く、魂をも抜けた感じ。

  • 今月のゲスト
    竹田ダニエル(ジャーナリスト・研究者)

    ★★★★☆家父長制の暴力は終わったものではなく、形を変えて残り続ける。本作はそれを世代を越えた連鎖として描く。性的搾取や女性の自由の剥奪を美化せず提示する点は、日本の社会を考える上でも示唆的だ。
     

    たけだだにえる/1997年生まれ、アメリカ出身・在住。「カルチャー×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆、研究。2023年「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」を受賞。著書に『世界と私のAtoZ』、『アメリカの未解決問題』(共著)など。

  • 最高!今すぐ劇場へ!★★★★★
  • おすすめできます♪★★★★☆
  • 見て損はない。★★★☆☆
  • 私にはハマりませんでした。★★☆☆☆
  • うーん……。★☆☆☆☆
東ドイツ時代の主人公アンゲリカは、思春期らしい自信に満ち溢れた明るい少女だ。そんな彼女の中にも希死念慮が潜む。監督いわく、本作のテーマの一つは「女性に向けられる心理的・身体的暴力」だとか。
©Fabian Gamper - Studio Zentral 配給:NOROSHI ギャガ
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『落下音』
監督・脚本:マーシャ・シリンスキ
2025年/ドイツ/原題:In die Sonne schauen(英題:Sound of Falling)/155分
新宿ピカデリーほか全国ロードショー
4月3日(金)~
https://gaga.ne.jp/rakkaon_NOROSHI/