世界有数のグランドピアノ
インタビューをしていた広いリビングの真ん中に、木でできた大きな美しいグランドピアノがある。
――ピアノ、弾かれますか?
小池 はい、弾きます。子どものころ、将来はピアニストになりたいと思っていて。小学1年のときから父にねだってピアノを習わせてもらってました。
どうぞ、見てください。これはローズウッドという木でできている、120年くらい前のグランドピアノ。フランスのエラール社のもので、いまはもう、会社自体がなくなってしまってますが、骨董品のようなものですね。美しいでしょう?
――なかなかお目にかかれないピアノですね。
小池 以前、新聞連載小説のための取材で鎌倉を歩いていたときに、挿絵をお願いしていた版画家の方も一緒だったんですが、彼の知り合いだった女性で、そのあたりに住んでおられた方に、偶然、後ろから呼び止められて。鬱蒼とした木々の中にある美しい古いお宅に住む方でした。せっかくだから寄って行きませんか、と誘われて、私たちはみんなで、そのお宅にお邪魔しました。その方は古いピアノを集めておられて、もちろんご自身もピアノを演奏されていて、私たちが行った時は、広いリビングに世界に名だたるピアノの名品が3台、置かれてたんです。その中の一台がこのピアノでした。
私がうっとりしてエラールに魅入られていたら、「ピアノお弾きになるんですか?」と。もともとピアニストになりたいと思っていたが、才能もないし、途中で気が変わって作家になったと答えたところ、そのピアノはオランダに移住している日本人の女性ピアニストが所有するもので、一時的に預かっている、古いピアノに興味がある方で信頼できる方がいたら、お譲りしたい、心あたりがあればぜひ、と頼まれている、と話してくれました。
それから少し時が過ぎて、そのピアノについては忘れかけていたんだけれども、ちょうどこの軽井沢の家を新しく建てる時、設計を頼んだ建築家に、この鎌倉での一件をふと思い出して話したんですね。どうしてそんなことを思い出したのか、よくわからないんだけど。そうしたら、その建築家の方が、ご自身、ピアノを弾く方で、すごく興奮して、「じゃあ、そのピアノをぜひ手に入れて、新居のリビング中央に置きましょうよ!」って話になって。だからこの家は、ピアノを置くために設計されたようなものなんです(笑)。(この顛末についての詳しいエッセイは『感傷的な午後の珈琲』をご覧ください)
――この空間にピアノがぴったり、はまっています!
小池 私の担当編集者に、プロのチェリストみたいな人がいるんです。チェロをもって彼に来てもらって、すばらしいチェロと、超下手くそなピアノの「自己満足セッション」(笑)を開いたこともありました。まだ元気だったころの夫が、にやにや笑いながら、それをビデオカメラに撮影してくれました。
小池 楽譜台の右横、美しい木の文様部分(写真の右手前)は、燭台に使われていた板です。電灯がなかった時代、ランプや蠟燭をここに置いて演奏していたそうです。
――これだけで小説が一本できますね!
小池 本当に!(笑)。
(3回目に続く)

