「私は、何で医学部医学科を目指しているんだろう?」
周りの級友は気の合う者同士で机を並べ、情報交換し、勉強を教え合い、高校では実施していないオープン模試を受けに行き、その結果を見せ合ったりしていた。
私は彼らの姿を羨ましく思いながら、ただ、眺めていた。
誰かとあんなに気が合うなんて。
みんな色々な情報知ってるなあ。
人に教えられるほど、勉強できてるんだ。
私の模試の結果なんて、恥ずかしくて誰にも見せられない。
オープン模試を一緒に受けに行く友達がいないし、まず、お母さんが許してくれない。模試を受けに行くって信じてくれない。
級友達にはそれぞれ、志望校を目指す理由があった。目標に向かってひたむきだった。
私は、何で医学部医学科を目指しているんだろう? みんなみたいに、理由もないし、一心に頑張るなんてとてもできない。
あかりが本格的に受験勉強に取り組みはじめたのは高校2年生の3学期あたりからだ。
中高一貫校のため、授業が進むスピードが速く、高校3年生の2学期あたりにはほぼ教科書の内容を終え、特別講習や補習が中心の授業に移行していた。
「門限が8時で、ちょっと遅れて帰ったら家に入れてもらえない」
あかりは高校2年生のときに教師にこう訴えていた。
「ウチのお母さんはすごく厳しくて、お父さんは単身赴任なんですけど、ほとんど別居状態なので。門限が8時で、ちょっと遅れて帰ったら家に入れてもらえなくて、家の外から『お母さん、許してください』と泣きながらメールを打ったんです」
母には、学校から帰宅する10分前に「いまから帰ります」とメールを送るよう命じられていた。そのメールが届くと、母が風呂を沸かしはじめる。あかりが帰宅すると先に母が浴室に行き、一息ついていると湯沸かし器の呼び出しメロディが鳴る。あかりが浴室に向かい、服を脱いで浴室の戸を開けると、湯気でいっぱいの洗い場で母が身体を洗っている。
洗い場で、母に湯がかからないように予洗いをして、浴槽に浸かった。高校生の娘と母が二人で風呂に入るのは、水道代と電気代を節約するためだ。それから、時間の節約にもなる。そのあと夕食を摂り、勉強を開始して、床に就くのは夜0時ころ。起床は朝6時、睡眠時間はほぼ6時間だった。
