2018年3月、滋賀県守山市の河川敷で、頭部や手足のない女性の遺体が発見された。遺体は近くに住む58歳の母親で、同居する娘・あかりが死体遺棄などの容疑で逮捕され、その後殺人罪でも起訴された。9年間浪人し医学部を目指していた娘と母の異常なほど密接な関係の裏に何があったのか。
2022年の刊行から累計22万部を突破した話題作、獄中の娘との書簡をもとに描いたノンフィクション『母という呪縛 娘という牢獄』(著=齊藤彩、講談社文庫)より一部を抜粋して紹介する。(全6回の4回目/5回目に続く)
◆◆◆
いったん京大に入り、「仮面浪人」して、あらためて医学科を目指すことに
「医学部」一辺倒だった母が、なぜ突然「京大看護」と言い出したのか。
それも母のプライドのためだったとあかりは言う。このまま第一志望の滋賀医科大に出願しても、合格の可能性はない。どこにも合格しない状態で、「素浪人」させるのは毎年多額の教育資金を送ってくれている祖母に申し開きができない。そんなことを言えるはずがない。
祖母や大叔母には、手紙を代筆までして、あかりがいかにかわいく、優秀な娘かという「演出」を積み重ねてきた。祖母や大叔母はそれを信じていて、いまさら後戻りできない。
看護学科とはいえ、京大ならブランド力もあるうえ、自宅から通える。
いったん京大に入り、「仮面浪人」して、あらためて医学科を目指す──それが、母の書いた「シナリオ」だった。しかし京大看護=京都大学医学部保健学科(現・人間健康学科)の偏差値は、60前後。医学科ほどではないにせよ、あかりの現状の偏差値から考えれば、やはり荷の重い選択だった。
「お母さんに殺されそうになった」三度目の家出をした理由
1週間後、あかりは三度目の家出を試みている。このときも、救いを求めたのは同じ男性教師だった。
「夕方の6時過ぎに電話がかかってきまして、『お母さんに殺されそうになったから逃げ出してきました、現在新大阪駅にいます。とりあえず助けてください』ということでした。声の様子や話しぶりからこれはただ事ではない、と思いましたので、『とりあえず来い』と言いました」(男性教師の法廷証言)
教師は独身で、高齢の母と二人暮らしだった。
あかりは夜8時ごろになって教師の家に姿を現した。
