「先生、ちょっと見てください」
あかりはそう言って別室に行き、太腿をまくって教師に見せた。そこには真っ黒い大きなアザが3つあり、驚いた教師が「これはどうしたんだ」と聞くと、あかりは、
「お母さんに回し蹴りをされました」
と答えた。教師はその日、あかりを自宅に泊めている。
「とにかく言わないでほしいです」あかりが警察にも学校にも知らせなかったワケ
翌日あかりは、教師の母に腕のアザを見せた。
「髙崎さん、これはまず通報したほうがいいよ。学校にも知らせよう」
「いえ、私担任の××先生とは相性が悪いんです。学校にも知られたくないです」
「警察に通報することも考えたほうがいいよ」
「……世間的なこともあるし、とにかく言わないでほしいです」
学校はまだ3学期の途中だったが、センター試験以降はほとんどの生徒が受験態勢に入るため、この先登校日は予定されていない。実質上次の登校日は卒業式という生徒がほとんどだった。あかりが「相性が悪い」という担任教師とも、今後面会する予定はない。
「しかたがないか……」
男性教師は学校や警察への通報を見送り、あかりを自宅に帰すほかなかった。
「囚人のような生活」から逃れるため
カンニング事件もあり、あかりに対する教師の評価は芳しいものではなかった。各教科の内申点も足りなかったため、推薦入学での進学は絶望的だった。
三者面談での担任教師に怒り心頭だった母は、「一般入試で合格して教師の鼻をあかせ!」と厳命していたが、あかりは母が言うように地元の滋賀医科大に進学することにはどうしても抵抗があった。
母から逃げたかったからである。
母は守山の自宅から通学できる大学に進むことを強く要求していたが、あかりはなんとかして、母から離れようと願っていた。そこで考えたのが、静岡・浜松にある浜松医科大学だった。
浜松医大も国立の超難関校で、推薦での合格枠はわずか25名。推薦入試に出願できるのはひとつの高校から4人以内と定められていたが、あかりの評価点は、推薦入試の願書を提出するために必要な最低ラインをぎりぎりでクリアしていた。
推薦入学の選考は2月6日、7日の2日間にわたって行われる。あかりは母にはひと言も告げず、独断で浜松医科大学医学科に願書を提出し、浜松へ向かった。
合格するには、センター試験で8割以上の高得点のほか、二次試験として適性検査、小論文、面接が課される。ハードルは限りなく高いが、もし合格すれば、母から離れて生活することができる。「囚人のような生活」から逃れることができる。